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国際アルツハイマー病協会国際会議に参加して 順天堂大学大学院教授 新井平伊

あらい へいい 順天堂大学大学院精神・行動科学教授。1999年、我が国で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。日本老年精神医学会理事長、認知症予防財団会長。おもな著書に「認知症と共に輝く日々をめざして」(飛鳥新社)、「アルツハイマー病のすべてがわかる本」(講談社)など。

 第32回国際アルツハイマー病協会国際会議が、4月26日から同29日の日程で、国立京都国際会館(京都市左京区宝ケ池)で開催され、筆者もプレナリー講演と共催セミナー演者として参加したので、成功裏に終わったこの国際会議の概要と開催した意義などを、筆者が受けた印象や私見とともに紹介する。

認知症と共生する社会目指し

 まず、メインテーマは、「認知症:ともに新しい時代へ」であった。超高齢社会の到来と共に新オレンジプランを打ち上げている我が国が世界を主導して、「認知症と共生する社会」を目指して医療・看護・介護・福祉関係者が、当事者である認知症の人とご家族と一緒になって認知症と共生する新しい時代に向かっていこうとする強い意志と姿勢を表す素晴らしいテーマと思った。

 主催は国際アルツハイマー病協会(ADI)と我が国の公益社団法人「認知症の人と家族の会」であり、日本組織委員会では国際会議議長としての見国生氏(認知症の人と家族の会代表理事)と国際会議委員長としての中村重信先生(元広島大学教授、認知症の人と家族の会顧問)が中心となって協会本部と連携のもと今回の開催を準備された。参加者数約4000人(医療・介護・福祉関係者、家族会関係者、認知症本人など)、参加国数は78カ国となり、当事者として認知症の本人も約200人参加したとのことであった。このような国際会議の目的は、ホームページによれば「認知症についての認識を世界的規模で高め、認知症の研究、治療ケアについて最新の優れた実践を学びあう」ことであり、厚生労働省や京都府などの後援も得て開催された。

世界での取り組み、研究発表

 そもそも、ADIとは全世界80カ国以上のアルツハイマー協会の加盟する国際組織で、1984年に設立され、各国の認知症に関する情報やケアの方法、またすぐれたケアモデル等の普及や交換の機会を通して、アルツハイマー協会の設立や、各組織を発展させるための支援を行っている団体であり、我が国の「認知症の人と家族の会」(1980年に京都で発足)は、「つどい」「会報発行」「電話相談」を中心に「国や自治体への提言」「調査研究」「国際交流」等の活動を行い、認知症の人本人とその家族への支援を行っている団体で、当事者の立場から認知症ケアを推進発展させる団体として広く社会に認められ公益社団法人の認定を受けている。このような両者が協力して、世界共通の大きな社会問題である認知症に関して国際会議を日本で開催することは大きな意義があると思われる。しかし、簡単に国際会議というが、成功裏に終わったことは言うに及ばず、国際的な組織を相手にしてプログラムを構成し、しかも世界各国からの代表を受け入れての4日間の構成に作り上げ、それを準備の段階から閉会式まですべて大きな問題なく終了させることができたことを目の当たりにして、さぞかし日本組織委員会の皆さんのご努力・ご苦労は大変なものだったと推察するし、強い感銘を受けた。

認知症本人から強いメッセージ

 さて、今回の国際会議では、「認知症の当事者に優しい社会をどうやって作っていくか」「認知症と共生する社会とは」の課題に対して、世界中の行政や家族会の試みや研究発表がなされた。また、認知症の本人からも強いメッセージがたくさん発せられた。我が国からも、新オレンジプランに関する発表、そして地域ぐるみの試みや家族会の活動など、多くのことが世界に発信できた。国際アルツハイマー病協会事務局長からは、認知症の人が住みやすい街づくりの先進的取り組みが紹介されるとともに、日本の認知症カフェやグループホームは世界に先駆けていると評価され、大変うれしく感じた。認知症本人やご家族など当事者の発表では、認知症と闘いながらも自らの意思をもって人生を歩んでいく姿勢が印象的であり、医療者として今後さらに家族会や地域との連携のもとで積極的に認知症医療を展開していく必要性を再確認した。若年性認知症も中心的なトピックスの一つとして取り上げられた。ここで記載するまでもなく働き盛りを襲う認知症は、老年期発症の認知症と異なり、その家族への経済的・心理的影響は比べ物にならないほどの大きなものである。医学的のみならず社会的保障の観点からも早急な対策が望まれている。そして、最終的には、認知症の有無に関わらず、「日本で頑張って働いて真面目に暮らしていけば、年老いたら国が守ってくれる」という社会を、我が国が保障制度も含めて作っていけるかということになると思う。

世界一 認知症に優しい国に

 さてこのようにいまだ多くの課題を突き付けられている認知症対策であるが、超高齢社会を迎えている我が国は世界をリードしていると思っている。国民健康保険に加えて介護保険もあり、新オレンジプランも国家戦略として動き始めている。もちろんこれからも、一般の人たちに認知症の理解をさらに深めることや人材育成、かかりつけ医の先生方を含めた医療連携の強化、そして何よりも「新オレンジプラン」が絵に描いた餅に終わらないようにすべての関係者・部署が協力して推進していくことなどがまずは必要である。もとよりその一翼を担ってきた当財団でも今後さらに多くの諸機関との協働を基にした公益活動を通して、さらなる貢献ができたらと思う。そして、名実ともに我が国が「世界でもっとも認知症にやさしい国」となることを願っている。

2017年6月