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母と私の認知症の日々 関口祐加監督

 私の母は、2010年にアルツハイマー型認知症と診断されました。もう7年たったことになります。今のところは、在宅ケアで何とか母と娘である私と一緒に暮らせています。長かったような、あっという間だったような7年間でした。私にとっては、認知症について学んできた年数でもあると思います。

視点を転換 ケア充実

 母の認知症初期は、大変でした。外出を嫌がり、そのうち入浴も全くしなくなりました。家に2年半閉じこもり、入浴に至っては3年半もしませんでした。そんな状況の時にお会いしたのが、順天堂大学大学院の新井平伊教授でした。新井先生は「お母さんは認知症の症状で閉じこもっているんじゃない。いろいろと混乱している自分に不安になって閉じこもっている」と言ってくださいました。この言葉は、まさに目からウロコ。認知症の視点を「心配している自分」から「不安になっている母」に転換することができた大きなきっかけになりました。

 そして、当時はまだ知りませんでしたが、私が認知症ケアにおいて唯一無二だと考えるようになったパーソン・センタード・ケア(PCC)の始まりでもあったのです。PCCをもっと知りたくて、PCC発祥の地イギリスまで行きヒューゴ・デ・ウアール博士と出会い、認知症ケアについて薫陶を受けられるようになったことは、母のケアをするにあたって大きな力です。

 母の認知症は、正確にはアルツハイマー病と脳血管性認知症の混合型なので、進行は比較的ゆるやかです。それでも昨年あたりから自分の家が分からなくなったり、私の顔を認識できなくなることが起きるようになりました。そんな時、まず私は母の脳の血流を促すために経口補水液を飲んでもらい、本人の状態を観察します。私の気持ち優先よりも本人のニーズを探る。私が冷静であることが、母の不安を払拭(ふっしょく)できることが多いことを知っているためです。そうやって考えると、認知症ケアは、サイエンスであり、スキルなのだと思います。

2018年1月