お年寄りが読み聞かせ 認知症予防で地域の子どもに

東京都健康長寿医療センターの研究講座

 お年寄りに子どもへの絵本の読み聞かせをしてもらうことで、認知症を予防できる可能性がある――。東京都健康長寿医療センター(板橋区)による、そんな世界的にも珍しい研究講座に注目が集まっている。講座に参加して読み聞かせの「技」を身につけたお年寄りが、地域の子どもたちに絵本を読むボランティア活動も少しずつ広がりをみせている。

 「おばあさんが川で洗濯をしていると どんぶらこっこ どんぶらこっこ……」。20人程度の小学生を相手に、お年寄りが「ももたろう」の絵本を読んでいる。場面ごとに表情を変え、桃太郎のせりふは勇ましく、鬼の声はおどろおどろしく。同センターが自治体の委託を受け、東京都豊島区など全国約20の自治体で取り組んでいる研究講座「絵本の読み聞かせプログラム」の一幕だ。

 研究講座がスタートしたのは2010年。東京都大田区、豊島区で始めた。お年寄りは12回に渡って絵本の知識、発声方法や見せやすい絵本の持ち方などを学び、子どもたちの前で披露する。発端は04年に同センターの藤原佳典研究部長が手がけた、絵本の読み聞かせプログラム、通称「りぷりんと」(復刻版などの意味)。社会とのつながりや会話、適度な緊張感など、高齢者に絵本の読み聞かせをしてもらうことには、認知症予防に役立つ要素が多いと考えた。実際に検証したところ、記憶をつかさどる脳の「海馬」の萎縮を抑える可能性があると分かった。

 藤原氏の研究を踏まえ、同センターの鈴木宏幸研究員が14年にまとめた研究結果では、絵本の読み聞かせが記憶力を高める可能性も示された。調査対象はもの忘れの不安がある65歳以上の高齢者58人。まず、全員に時間、場所など約50の情報が詰まったニュースを伝え、直後と30分後ではそれぞれ何%の情報を覚えているか(記憶保持率)を確認した。その後、半数の29人には読み聞かせの講座に参加してもらい、参加後(3カ月後)に再び同じニュース、同じ方法で記憶保持率を調査。参加前と比較した。残る29人の講座不参加者については、最初と3カ月後にそれぞれ記憶保持率を調べた。

 その結果、講座参加者の記憶保持率は参加前が平均62・7%だったのに対し、参加後は74%に上昇した。一方、不参加者は当初58・8%、3カ月後56・7%と大差はなかった。また、対象者を「認知機能が軽度に低下している」29人に絞ったところ、講座参加者(14人)は参加前に47・5%だったのが、参加後には67・1%にアップ。逆に不参加者(15人)は42%から36・6%に下がった。

 鈴木研究員は「読み聞かせには認知症の発症を遅らせる可能性がある。読む時に感情移入をすることでより脳が活性化すると考えられる」と話す。対象年齢別にどの絵本を選べばよいか、作者が伝えようとしている点などを考えることも、効果を高める要素という。

 効果はじわじわ伝わり、18年度は東京都立川市や新宿区、秋田県美郷町など12市区から委託を受けている。講座を終えた人たちの多くは自主グループを作り、読み聞かせを続けている。

 15年度から委託を始めた板橋区では、毎年40人程度が受講する。修了後も8〜9割はボランティアグループ「りぷりんと板橋」に参加し、今は約100人の高齢者が読み聞かせに取り組んでいる。同区長寿社会推進課は「受講希望者が多く、毎年定員オーバー。高齢者の社会参加促進が狙いなので、目的は達成している」と話す。

2018年6月