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「共生」「予防」2本柱で

認知症対策 政府が新大綱

 政府は6月18日、新たな認知症対策「認知症施策推進大綱」をまとめた。認知症の「予防」に力点を置いていることが特徴で、予防の推進により70歳代での発症を10年間で1歳遅らせることを目指すとしている。政府は認知症政策の柱に認知症の人とそうでない人の「共生」を据えてきたが、今後は共生と予防の二本柱とする。ただ、過度な予防の強調は、当事者や家族への圧力になりかねないとの批判も出ている。

 新大綱は2015年に策定し、25年までを対象としていた認知症の国家戦略「新オレンジプラン」の更新版。対象期間は19年から25年までの6年間だ。

 政府はこれまで、「認知症になっても地域で安心して暮らせる」ことを目指し、政策の軸を「共生」に置いてきた。新大綱でもその理念を引き継ぎ、移動手段や住宅の確保推進を目指す「認知症バリアフリー」を進めることなど、共生を進めるための政策を並べている。

 しかし、厚生労働省の推計によると、65歳以上の認知症の人(15年時点で約520万人)は、戦後ベビーブームの「団塊の世代」(47~49年生まれ)が全員75歳以上となる25年に約700万人となる。65歳以上の5人に1人という計算だ。安倍政権が目指す「生涯現役社会の実現」には、共生だけでなく予防も必要と判断し、共生と予防を両輪とする新たな大綱をつくることにした。

 予防策として新大綱は、食事など、国民の生活習慣の改善や研究開発の推進を挙げている。高齢者に運動教室など「通いの場」への参加を促し、社会とつながる機会を増やす。予防に役立つ商品やサービスに国がお墨付きを与える認証制度の創設も検討する。予防の強化により、結果として70歳代の発症10年間で1歳遅らせることを目指す。

 それでも、現時点で確実な認知症の予防手段はない。個別の予防策の効果も不明で、新大綱でもデータを蓄積し予防法を確立する、としている段階だ。政府も「認知症予防に関するエビデンスはいまだ不十分」と認めている。政府は当初70歳代の人口に占める認知症の人の割合を6年で6%減らす、との数値目標を掲げていたが、「『認知症になるのは本人の努力が足りないからだ』と捉えられかねない」といった批判を受け、撤回。予防策を推進した結果として「発症を10年で1歳遅らせる」との表現にとどめた。また、予防の定義として、「『認知症にならない』という意味ではなく、『認知症になるのを遅らせる』『認知症になっても進行を緩やかにする』という意味」との表記を加えた。

■認知症対策大綱のポイント

【共生】
・バリアフリーに貢献した企業・団体への認証制度創設など「認知症バリアフリーの推進」
・消費者被害防止施策の推進
・若年性認知症の実態把握や支援強化
・認知症の行動・心理症状(BPSD)予防の治療指針作成など医療従事者の対応力向上
・いずれの施策も当事者や家族の意見を踏まえ立案

【予防】
・認知症発症、進行の仕組みの解明などの研究開発促進
・民間商品、サービスに対する評価・認証制度創設を検討
・運動施設など「通いの場」への参加促進
・介護関連のデータ収集・分析により、効果が裏付けられたサービスを提示
・個別予防法のエビデンス(根拠)を整理した手引き作成

2019年6月