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「自分史づくり」検証へ

厚労省補助事業 本財団と上智大など 高齢者の生活、意識の変化を調査

 認知症予防財団は今年度、上智大学などの協力を得て、「自分史づくり」が高齢者の生活や意識にどのような影響を与えるかを調査する。65歳以上の人に過去の思い出などを綴ってもらい、その前後で生活の満足度や余暇活動などに変化があるかどうかを調べる。書くことによる継続的な脳の使用が、認知症予防のとっかかりにならないかを探るのが目的だ。「ライフレビュー(回想法)レクリエーションの効果に関する調査研究事業」の名称で、厚生労働省が補助する2019年度の「老人保健健康増進等事業」に採択された。

 本財団と毎日新聞社は昨年9月から、自分史づくりの講座「ライフレビューレクリエーション(LRR)」を各地で開いている。講座で使用するのは、毎日新聞が作成し本財団が監修する「思い出ノート」だ。認知症の非薬物療法の一つ、回想法を参考に、100の質問に答える形で昔の思い出や出来事を記入することができ、自分史をつくる際の骨格になる。受講者からは「文章を書いてみたくなった」「脳が活性化した気がする」といった評価を受けている。

 ただ、受講者のその後の様子は確認できておらず、中長期の効果は明確になっていない。このため、「自分史づくりには、前向きな生き方を選ぶようになる効果があるのでは」との仮説の下、一定数の高齢者にLRRを受けてもらい、暮らしぶりや意識に変化が生じるかどうかを調べることにした。千葉県の分譲住宅の住民や、東京都、群馬県、大阪府の介護施設の利用者を対象に、9月から12月にかけて実施する。

 千葉県では東急不動産の協力を得て、同社が分譲した住宅に住む百数十人程度の高齢者に計3回のLRRを受講してもらう。講座の前後にアンケートを取り、生活意欲や運動の有無、余暇活動などに変化があったかを確認する。受講しなかった人との比較も行う。

 また、介護施設では数十人の職員らにLRRを受講してもらう。施設のお年寄りが思い出ノートに記入する際のサポート役をお願いする。施設入居者の印象深い過去を知ることで、より当事者に寄り添った介護が可能になるとされており、受講前後で高齢者の生活や態度に変化が生じたか、介護の負担軽減につながったかどうかなどを調べる。

 調査、分析は上智大の松田修・総合人間科学部教授の協力を受ける。調査データの評価は、LRR評価委員会(委員長・新井平伊順天堂大名誉教授)が実施する。効果を見定めたうえでLRRを全国に広め、認知症予防の可能性を探る端緒とする。

2019年9月