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基調講演「認知症 最新の早期診断・治療法から予防まで」

新井平伊・アルツクリニック東京院長(順天堂大学名誉教授、認知症予防財団会長)
◎アミロイドβ検出の脳ドックが有効

 東京駅のすぐ脇でクリニックを開いています。大学に今年3月まで勤め、定年を迎えました。長年の研究をフィードバックしたいと考え、臨床に専念しています。

 今の統計では462万人が認知症で、前段階のMCI(軽度認知障害)も含めると800万人です。「脳の寿命を延ばす」が我々の大きなテーマです。ただ、もし認知症になっても、人生はそれで終わりではありません。

 早く受診し、治る認知症を見過ごさないことが大事です。認知症で有名なのはアルツハイマー病、血管性認知症、最近ではレビー小体型。これらは今の治療ではなかなか治すのが難しいですが、正常圧水頭症や硬膜下血腫といった脳外科疾患、甲状腺機能低下症やビタミンB欠乏症などの内科疾患などは治ります。ただ、治る認知症は少ないんです。

 認知症はアルツハイマー病が代表的で全体の6割、だんだん増えて今は7割程度です。認知症と言えばアルツハイマー病で、世界中で根本的な治療法が検討されています。進むにつれ脳が萎縮し、CTで診ると脳脊髄液がたまっている黒い部分の空間が増えていきます。もう一つ、脳の血流スペクト検査があります。CTは脳の「形」を診ますが、こちらは脳の「活動」を診ます。

 アルツハイマー病にも治療薬はありますが、限界があります。ただ治療法は薬だけではありません。日々楽しいことをし脳を活性化するのが一番です。認知症というと「物忘れ」と思われがちですが、物忘れは中核症状です。人間ですので、心理的な症状、行動上の症状もあります。これはきちっと分けて治療の対象にすべきです。

 行動心理症状は多彩ですが、例えばもの盗られ妄想、イライラして家族にあたる、夜眠れない、といったものがあります。何が生活を送るうえで問題なのかを整理し、相談するのが大切です。これらの症状は治すことが可能だからです。

 アルツハイマー病はゆっくり経過します。早い段階で薬を使えば1〜2年間はよくなるのですが、また進んでしまいます。しかし、早い段階で治療を始めるのと、ある程度進んでから始めるのでは維持できるステージが全然違います。また、薬を飲んで変わらない場合は効いていると考えてください。

 予防にいきます。予防には1次、2次、3次があります。ただ、「病気にならない」という1次予防は今のところ難しい。それでも、発症を遅らせる2次予防、進行を遅らせる3次予防はかなりできるようになりました。

 まずは予防対策の初級者向けです。肉食傾向、飲酒、喫煙、肥満、過度の乳製品摂取などは危険因子です。動脈硬化、高脂血症、高血圧、糖尿病などのある方は治療をするのが一番大事。年齢、遺伝的なものとともに、生活習慣病は認知症リスクを高めます。リスクを下げるのは、運動や食事です。魚、肉、野菜をバランスよく。それから血圧を下げておくことです。

 中級者向けはもの忘れが少し心配な方用です。大事なのは認知症の前の段階、。MCIです。最近はもう一歩前の段階、主観的な認知機能の低下、SCDが関心を集めています。家族や周りの人には気づかれず、自分だけが感じている段階です。SCDもMCIも、うつ病、寝不足、睡眠時無呼吸、糖尿病といろんな原因があります。ただ、アルツハイマー病も必ず一部含まれているので、この段階できちんと見つけることが大切です。

 まとめると生活習慣病を治療するのは一番大事で、あと6〜7時間の睡眠。運動は、適度な汗をかくくらいのものを週3回ぐらい。あとはお酒。もの忘れが気になり始めたら減らした方がいいです。大規模な研究によると、お酒を飲んだ人が一番脳が萎縮していました。もっとも、認知症にならないことばかりに気をとられて毎日を送るのはよくありません。

 上級者向けには、私が世界に先駆けてやりたいことを説明します。「脳ドックを毎年受けてるから心配ない」という社会の認識を変えたいんです。脳ドックはMRI検査です。脳の萎縮の有無で判断しますが、ある程度はっきりしてこないと異常を認められません。

 アルツハイマー病は、最初にアミロイドβたんぱくが脳の中にたまってきて、タウたんぱくが絡んで神経細胞がダメージを受け、長年かけて脳が萎縮していきます。MRIで萎縮が分かるかどうかという段階で予防をしても手遅れです。アミロイドβはたまっているが、まだ神経細胞は元気といううちに介入するのが私の願いです。

 そこで導入したのがアミロイドβを検出するアミロイドPET検査を含んだ脳ドックで、「健脳ドック」と呼んでいます。アミロイドは認知症発症の約20年前からたまってくることがわかっています。アミロイドにくっついて(画像で)検出できる最先端の試薬を使います。

 専門病院で「若年性アルツハイマー病」と診断されたお2人の事例です。セカンドオピニオン的に当クリニックに来られ、お一人は陰性、お一人は陽性でした。陰性の方はアルコール性の健忘症と診断しました。今は仕事に戻られています。陽性の方はMCIでしたが、国際的な(認知症根治薬の)臨床試験に参加されています。

 SCDからMCI、この段階にアミロイドがたまっているか否かで作戦を立て直すのが大切です。5歳刻みでみると、65、70、75、80歳で認知症の方の占める割合は倍、倍、倍と増えます。世界共通です。2次、3次予防で発症を5年遅らせることで、社会を支える世代の認知症の方を半分にできます。こうした社会貢献をできればと考えています。

2020年1月