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講演「もの忘れとどう付きあうか 認知症の人の心を支えるには」

松田修・上智大学総合人間科学部心理学科教授
◎他者と関わり 役立ちたい

 心理学の立場から、認知症になっても人生を楽しむには、また少しでも認知機能の低下を起こりにくくするためにどういう風に生きていくか、ということを研究しています。

 認知症でもかなり軽い段階で外来を訪れる患者さんが多くなりました。アルツハイマー病の方は、新しい情報を脳に保存できません。(本人が何か言うと)周りは知っていて「お父さん、こう言ったでしょ」と言われるけど、本人には覚えがなくて。自分だけ知らないことを皆が知っているというのが不思議だと。そしてつい家族に怒ってしまうということでした。また、今まで当たり前のようにできていたことが、当たり前にいかなくなる、この変化に皆さんとても悩まれます。そうしたことで、人生が楽しめなくなるんじゃないか、と思っておられるのではと感じています。

 不安を感じている患者さんの心を支えるためにしてきた実践や研究を紹介します。まずは認知機能の低下を遅らせる取り組みです。いろいろやって、うまくいったのは物事を効果的に情報処理する前頭葉に刺激を与える取り組みでした。(後出し)じゃんけんで、私の指示通りに勝ったり負けたりしてもらうエクササイズなどです。

 次は活動の維持、社会参加を支える取り組みです。認知症の初期の方、自分でできることはできる限り続けたいという方には、工夫と思いやりで結構、活動を続けることができます。患者さんはまだまだできるという幸福感を感じ、生きる意欲になって活動参加にもつながります。

 患者さんが大好きなテレビ番組を見ていない、おかしいと感じたご家族は、患者さんが違う日の新聞を見ていることに気づきました。それからご家族は部屋にその日の新聞しか置かず、老眼鏡やテレビのリモコンを一カ所に置くようにしました。たったこれだけで患者さんは大好きな番組を楽しめるようになりました。

 最後は、心を支える取り組みです。集団精神療法的な「メモリーミーティング」に参加している患者さんが最近の悩みを話すと、別の患者さんが温かい言葉でその患者さんを励ましたのです。このとき励まされた患者さんはいつも他の患者さんを励ましてくれる患者さんでした。患者さんが互いに支え合うことで力を得ていることを学ばせてもらいました。

 これらの実践を通じて、多くの患者さんから学ばせていただいたことがあります。それは、根拠に基づいた工夫をすることで患者さんの願いがかない、日常生活や社会生活を続けられる可能性があること、そして、患者さんも誰かを支え、役に立ちたいと思っておられることです。

 最後に、学生の卒論の研究です。幸福度の高い方ほど友人関係に満足していることや、他者のために貢献する活動をしている方の幸福度が高いことが分かりました。高齢になっても認知症になっても、他者との関わり、他者のために役に立ちたいと思って行動することが、幸福感の維持、向上に繋がる可能性があるのではないでしょうか。

2020年1月