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講演「高齢者住宅における認知症の予防と対応への取組み」

石井良明・東急イーライフデザイン社長
◎運動と栄養、交流を大切に

 私どもの会社は「私らしくを、いつまでも。」を事業ステートメントとして掲げ、自立した高齢者の方向けの住宅、訪問看護・訪問介護などの事業、介護が必要な方向けの住宅を展開しています。入居者の方には適度な運動を継続的に行って頂くこと、しっかりと栄養をとって頂くことで、生活な必要な筋力を維持していただき、末永く運動が継続できるような取り組みをしています。さらに入居者同士や地域、多世代との「交流」も積極的に支援しています。

 中でも「ロコモ予防体操」に力を入れています。筋肉、骨など運動器の障害による移動機能低下の状態がロコモです。ロコモ予防は介護予防の最初のステップとなります。

 特に太ももを鍛えることで転倒防止を意図しています。順天堂大学と連携し2015年から週に数回ロコモ予防体操と年2回の体力測定をしました。男性3人、女性人名が参加し、平均年齢は87歳です。15年と19年を比べると8人は体力が上がっていました。ロコモの防止は認知症予防にも有効ではと考え、検証を続けています。

 食事も重要と考えています。自立型住宅には各住戸にキッチンがあり、自分でお料理も可能です。また、1年中予約なしにお友達とも一緒にお食事できるレストランがあります。栄養士が栄養のバランスを考えてたメニューを提供しています。

 「交流」ですが、住宅内に映画鑑賞、音楽鑑賞などたくさんのサークルを設け、部屋から出るのが楽しい環境づくりに取り組んでいます。東京都世田谷区中町などでは、分譲マンションとシニア住宅を隣接させ、さらに地域に開かれた共用棟をつくり、街全体での交流を図っています。行事を地域の人にも開放し、交流を深めてもらっています。

 要介護の方向けの住宅には、認知症ケアの指針を定めています。介護される側を中心に考える、パーソンセンタードケアを掲げています。ご本人の状態、環境、性格の傾向、生活歴などを多面的に考え、試行錯誤しながら満足度を上げていこうとしています。重要なのは、ご本人がどんな思いを持っておられるのかを知ることです。ケアのヒントになる情報を集めています。「見る」「話す」「触れる」「立つ」を柱に、ケアの際に本人の尊厳を保つユマニチュードを社内で積極的に導入し、介護される方からの評判も上がりました。

 認知症になっても安心して生活できる住宅デザインについても注力しています。英国にスターリング大学認知症サービス開発センター(DSDC)という、認知症に優しいデザインを研究しているところがあります。そこと提携し、知見を住宅に反映させることを考えました。見通しがよく、どこに何があるかが分かりやすい設計、五感の機能を高めるデザインなどで、我々も取り入れ、DSDCの認証検査の結果、EU以外で初めて最高位のゴールド認証を取得しました。例えば、お手洗いの扉は黄色に統一し、すぐ分かるようにしています。トイレは自分で行けることが尊厳を保ちます。一方で危険な扉などは壁の色と同化させ、分からないように工夫しています。ただ、どんなにハードを整備しても、最終的には、働くスタッフがご入居者に提供するサービスこそが最大の付加価値であり、そのためには働くスタッフのモチベーションの維持向上や満足度向上が最も重要だと考えています。

2020年1月