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アデュカヌマブ 承認の有無 3月7日までに結論

米食品医薬品局が3月上旬までに結論

アデュカヌマブを取り上げた「ネイチャー」(2016年9月)の表紙

 米国製薬大手のバイオジェンと日本のエーザイが共同開発を進めていた認知症の治療候補薬「アデュカヌマブ」。審査に当たっている米食品医薬品局(FDA)は、承認の有無について審査期限の2021年3月7日までに結論を出す。

 両社は一度承認申請を断念しながら、データの再解析によって申請にこぎつけた。早期アルツハイマー病(AD)向けの世界初の根本治療薬として期待を背負っており、20年11月にはFDAも高評価をほのめかした。ただ、その直後に外部の専門家で構成するFDAの諮問委員会は効果に懐疑的な見解を示し、楽観ムードは一変。各国の医療界はFDAの動向を固唾(かたず)をのんで見守っている。

 認知症のうち6〜7割を占めるADは、脳内にたんぱく質のアミロイドβ(Aβ)やタウが蓄積し、神経細胞を破壊させることで発症するという説が有力だ。現在、日本では4種の治療薬が承認されており、代表的なアリセプトなどは残存する神経細胞の情報伝達力を高める効果がある。ただし原因物質とされるAβなどには作用せず、進行を遅らせる「対症療法」にとどまる。

 一方、アデュカヌマブはAβを脳から除去し神経細胞の減少自体を抑える根本治療を目指している。認知症手前の軽度認知障害(MCI)段階から投与できるのも特徴だ。世界保健機関(WHO)は全世界に約5000万人いる認知症患者が30年後に1億5200万人に増えると推計しており、アデュカヌマブが承認されれば画期的な薬になると注目されている。

 07年に開発が始まったアデュカヌマブへの評価はめまぐるしい変遷をたどっている。少数の患者を対象とした初期の治験では、Aβの除去と認知機能の低下を抑制する効果がみられたとして権威のある科学誌、ネイチャーに論文が掲載された。15年には多くの患者を対象とした二つの治験に着手している。だが、18年末までに治験を終えた1748人分のデータを外部の専門家が中間解析したところ、「目標とする効果を示す可能性は低い」と判断された。これを受け、バイオジェンとエーザイは19年3月、最終の第3相に達していた治験を中止した。

 ところが、中間解析の後から治験中止までの約3ァ月間分を加えた計2066人分のデータを内部で再解析した結果、一つの治験では認知機能の低下を抑える効果に関する目標値をクリアした。もう一つの試験では効果が見られなかったものの、両社は19年10月、再びFDAに承認申請する方針に転じ、20年7月に申請を終えた。

 好結果が出た理由についてバイオジェンなどは、追加分には多量の薬を投与した人(体重1キロ当たり10ミリグラム)のデータが多く含まれていたことを挙げている。副作用を避けるべく治験当初は一定の患者への投与量を抑えていたが、その後安全性を確認し徐々に増やしていった。時間の経過につれて投与量が増えたため、中間解析後に集めたデータには高用量の人の分が集中している。また、効果が認められなかったもう一つの治験は開始時期が1カ月早く、投与量の少ない人の割合が高い。このためパスしなかったと見ている。高用量の人だけを抽出して調べると結果は良好だったという。

 二つのうち一つでしか効果が認められなかった治験結果に対し、FDAは20年11月4日、「非常に説得力のある証拠が提供された」との見解を示した。各界で「承認確実か」と受け止められ、バイオジェンとエーザイの株価は急騰した。ところが2日後に開催されたFDAの諮問委員会では、「認知機能低下を遅らせる根拠は不十分」との見解が大半を占めた。

 両社の株価は急落、「諮問委の見解を覆すのは難しい」との見方が広がっている。ただ、諮問委の見解に拘束力はなく、FDAが承認に踏み切る可能性は残っているという。

 米国の製薬業団体によると、00年以降、認知症根治薬の開発には33社が6000億ドルを超す研究開発費を投じてきた。だが、ここ数年は開発の中止が止まらない。18年2月には米メルク、同6月には米イーライ・リリー、英アストラゼネカが治験を中止、19年もスイスのロシュが2月に最終段階で製品化を断念し、9月にはエーザイなどの別の候補薬も脱落した。

 それだけにアデュカヌマブには各界から熱い視線が注がれている。ただ、錠剤などと違い点滴で投与するバイオ医薬品だ。量産が難しく、仮に承認されても相当高額になると想定されている。

2020年12月