東京商工リサーチによると、2024年上半期(1〜6月)の介護事業者の倒産件数が前年同期比50%増の81件に達した。これまで最多だったコロナ禍の20年上半期(58件)を上回り、介護保険のスタートと共に調査を始めた00年以降で最多となった。小規模の事業者を中心に、低賃金を背景とする深刻な人手不足、物価高をカバーできない低調な介護報酬改定などが影響したと見られる。
これまで政府は「低賃金」とされる介護職の処遇改善を進め、介護サービスの公定価格である介護報酬の24年度改定でも1・59%の増額改定とした。それでも更に高い賃上げに踏み切った他業種との格差は開いたまま。人材を確保できないためにサービスを提供できず、十分な報酬を得る機会を失っている事業者は少なくない。
また介護報酬は原則3年に1度の改定で、光熱費やガソリン代などが上がってもなかなかその分を価格転嫁できない。全体の81件の倒産中、「販売不振」を理由とするものは64件と79%を占める。
倒産を事業者の規模別に見ると、「従業員10人未満」が63件(77・7%)、「資本金1000万円未満」が71件(87・6%)と小規模・零細事業者へのしわ寄せが目立つ。介護業界には日本生命など大手異業種の参入が進んでおり、体力のない事業者は淘汰(とうた)されている。21〜23年はコロナ禍での政府による支援策で一息ついていたものの、支援策の縮小によって倒産が一気に増えた格好だ。
業態別ではヘルパー派遣などの「訪問介護」の40件が最も多く、前年同期より42・8%増えた。原因は「販売不振」(34件、全体の85%)が群を抜く。全体では増額された24年度の介護報酬改定の中でも、訪問介護は基本報酬が引き下げられており、介護業界などから「存続できない事業者が相次ぐ」との懸念が示されていた。
デイサービスなどの「通所・短期入所」の倒産は前年同期比38・8%増の25件、「有料老人ホーム」は125%増の9件だった。倒産件数は、訪問介護を含めたこれら介護の主要3業種そろって過去最多。有料老人ホームの場合、「負債額1億円以上」が5件(55・5%)と半数以上で、必ずしも小規模事業者ばかりではない。
負債規模に関しては、介護事業者全体で見ても「負債額1億円以上」の倒産が前年同期比185・7%増の20件と急増している。人手不足などの影響は中規模以上の事業者にも及び始めていることがうかがえる。倒産事業者を都道府県別にみると、最も多いのは大阪府(11件)だった。次いで東京都(6件)、神奈川県(5件)などとなっている。
2024年8月