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東京・葛飾 回想法根付かせ20年 思い出語って脳活性化

回想法に取り組む「霜月会」の人たち 右端は大西さん

 認知症予防に効果が期待できる「回想法」を地域に根付かせる東京都葛飾区の取り組みが今年、20年目を迎える。実動部隊は区民でつくる「葛飾回想法トレーナーの会(通称・ふくろうの会)」。会員の46人を中心に、回想法に関する区の研修を受けたトレーナー(聴き手)が区の各地域でお年寄りに昔の思い出を心地よく語ってもらうための活動をしている。

 回想法は認知症の非薬物療法の一つ。昔の体験を語り合ったり、古い写真や道具を見たりして過去に思いを巡らせることで脳を活性化させる。自分の輝いていた頃を顧みることが精神を安定させ、心を穏やかにするとも言われる。葛飾区でも体験した高齢者から「人の話を聞くうちに昔の記憶がよみがえった」「自分の人生をまんざらでもないと思えるようになった」といった感想が寄せられている。

 同区では2004年に職員が専門家から回想法を学んだのを機に、06年に地域への定着を目指してトレーナーの養成を始め、13年にはふくろうの会の発足につながった。現在、活動自体は区の介護予防事業ながら、回想法の実践は同会の主導に切り替わっている。

 区の各地域には高齢者でつくる13の回想法自主グループがあり、ふくろうの会のメンバーが分担して各グループを受け持っている。それぞれ毎月1〜2回、10人前後にテーマを決めて昔の思い出を語ってもらう。区の地域包括ケア担当課長、筧美紀さんは「区民主導なのが特徴です」と胸を張る。

 昨年11月21日は自主グループの一つ、「霜月会」の月1回の活動日だった。女性6人、男性1人がふくろうの会の会長、大西啓之さん(73)ら4人のトレーナーと輪になって座り、この日のテーマ「落とし物 失(なく)した物の思い出」に沿って若い頃の記憶をたどった。

 90代で最高齢の女性は昭和20年3月の東京大空襲の話を切り出した。家財を失い、疎開を余儀なくされた時の絶望感に触れつつ、家族全員無事だったことを喜び、「今の平和は本当に幸せ。ずっと続いてほしい」と結んだ。

 70代の男性は幼稚園時代、隣の女児の目にいたずらをしようとして、優しく大好きだった先生から強く叱られたことが忘れられない、との思い出を披露した。周りの「どこが落とし物の話?」という空気にニヤリとし、「先生の大きなカミナリ、落とし物でした」とオチを付けて笑わせた。

 終了後、トレーナーたちは「振り返り(反省会)」を開いた。想定は「子ども時代の思い出」だったのに、大半は20代以降の話だった点が話題となり、「皆さん幼少期はモノのない時代。モノを大切に扱って失わなかったのかも」といった声が聞かれた。大西さんは「テーマ選びは難しいのです」と話す。

 大西さんは金融機関を定年退職後、区の回想法のイベントでかつて遊んだベイゴマなどを見て「面白い」と夢中になった。回想法を基礎から学び、自主グループの立ち上げにも関わった。お年寄りの中には80代で参加し、10年以上認知機能の低下がみられない人も複数いるといい、大西さんたちはこうした人を増やしていくことを目標に掲げている。

2024年12月