金沢大学の小野賢二郎教授らとエーザイの共同研究グループは、脳脊髄液内にあるアルツハイマー病(AD)の原因物質とされる異常たんぱく濃度を測定する新たな技術を活用し、脳神経の病変が大きい人ほど異常たんぱくの濃度も高いことを明らかにした。濃度の測定には異常たんぱくに結合して排除するAD治療薬「レカネマブ」を使う。薬の投与前後の濃度を測ることによって治療の効果を確認できる。またこの先、個別に最適な治療法を見つけたり、認知症の進行具合を予測したりすることもできる可能性があるという。
AD患者の脳内には、アミロイドβ(Aβ)と呼ばれる異常たんぱく質などが20年以上に渡って蓄積している。Aβは脳内で徐々に変化して線維状の塊となっていくが、最終段階前の「プロトフィブリル(PF)」の時期が最も毒性が強く、脳の神経細胞に悪影響を与えると指摘されている。
レカネマブはPFに結合し、脳内から除去する作用がある。これまで脳脊髄液内のPF濃度の測定は困難だったが、エーザイはレカネマブが捉えたPFに光る分子をくっつけて数えやすくすることで、微量のPFでも正確に濃度を測定できる技術を開発した。
この手法を使い研究チームでAD患者や健常者らの脳脊髄液を調べたところ、認知症になる手前の軽度認知障害(MCI)や軽度の認知症の段階からPF濃度が上昇していた。また、認知症が進行して脳の神経組織に大きな変化が生じている人ほどPF濃度が高いことも突き止めた。
結果を通じ研究チームは、①AD患者の脳脊髄液にはレカネマブが捉えるPFが存在する②PFは脳神経細胞を死滅させる高毒性のたんぱくである−−ことが示唆されたとし、レカネマブがADの進行を抑えるメカニズムの一端が明らかになった、としている。
レカネマブはエーザイと米バイオジェンが共同開発し、日本では2023年末から販売が始まった。これまで小野教授らは脳内でのPFの作用を解明したほか、レカネマブの成分がPFに結合して抑え込む様子を世界で初めて撮影することにも成功している。
2025年3月