季語や定型などの決まりがない自由詩「ライトハイク」の普及を目指す一般社団法人ライトハイク協会(八塚慎一郎代表理事)は、ライトハイク教室を各地の高齢者施設で開くことを決めた。お年寄りに自ら詩を編む「自分発」のレクリエーションとして親しんでもらい、それが認知トレーニングにつながればなおいいと考えた。認知症予防財団はこの取り組みを後援する。
4月11日、学研グループが運営する横浜市中区のサービス付き高齢者向け住宅「ココファン伊勢佐木長者町」(入居者約80人)で、同協会初の高齢者施設向け教室が開かれた。80〜90歳代の女性7人、男性1人の入居者が参加し、ライトハイクに挑戦した。
「季語がいるのでは」「難しそう」と不安そうな人もいて、最初は少し硬い雰囲気だった。しかし、ライトハイクはお題の上の句に応じて同じ文字数の下の句をひねり出すことが唯一のルール。「笑いがなくてもいい気軽な大喜利」とあって、場の空気は次第にほぐれていった。八塚さんがお試しで出した「雨の遊園地は」とのお題に「犬も寂しそう」との句が返ってきて、八塚さんは「既に詩ですね」とうなった。
本番のお題は「さよならのかわりに」。これに対して入居のお年寄りたち全員が自作を掲げ、その中から「月日がたって今幸福」が下の句に選ばれた。
次はその言葉につなげる投句の中から、「別れた貴男もですか」に賛同が集まった。そして更にそれに続く言葉が結ばれ、一編の詩が完成した。
さよならのかわりに
月日がたって今幸福
別れた貴男もですか
あの日の別れ正解ね
施設の佐藤亜希子事業所長は「皆さん、部屋に帰ってからいろいろ想像を膨らませていたようです」と明かす。参加者からは「刺激になった」「またやりたい」と好評で、軽度の認知症の女性は「若い頃がよみがえった。つらくて泣いたこと、恋愛のことも思い出しました」と口にしていたという。
一般的に老人ホームなどの高齢者施設では、入居者にとって見たり聞いたりする受け身のイベントが多く、自ら発信できるものは貴重だという。佐藤さんは「入居者さんによってはずっと自室で寝ている日もあります。部屋を出て、みんなと会話しながら自分の句を発表できる機会を得られてよかった」と振り返る。「月日がたって今幸福」への対句に「老人ホームも楽し今」と詠んだ人もいて、「涙が出そう」と感激していた。
高齢者がライトハイクに挑戦することについて、認知症予防の第一人者、朝田隆メモリークリニック院長(筑波大名誉教授)は「最終的に思いもかけなかった詩ができあがり、そうした目からウロコの体験が新たな神経回路、柔軟なカッコいい脳を作る。自分の思い出が輝きに変わり、また、できない人がいない点もいい」と話す。
八塚さんは「『雨の遊園地』のお題で犬に焦点を合わせるセンスは素晴らしい。年を経て言葉を交わした経験をたくさんお持ちの方々だからこそ強い」と話す。「言葉は忘れない」ことを再認識したといい、今後も多くの高齢者施設で教室を開く決意を語っていた。
2025年6月