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認知症の身元不明者 顔認証で確認/国際人財開発機構などが共同開発

顔認証・使い方動画

 ひとり歩き中に保護された認知症の人などの身元を、顔認証システムで確認できるスマートフォンアプリ「迷子.org」が9月から稼働する。認知症の高齢者は行動予測が難しいうえ長距離を移動するケースも多く、身元確認に時間がかかる場合も少なくない。その点、公益財団法人「国際人財開発機構」と日本ネクサスが共同開発したシステムを使って認知症の人の顔写真などをアプリを通じて登録しておけば、保護された直後に身元が分かって家族に連絡が届き、家族や警察の心身の負担を大きく軽減できるという。

 警察庁によると、認知症などで昨年行方不明になった人は全国で延べ1万8121人。このうち491人は死亡状態で発見された。また認知症などで身元が分からず、介護施設などで保護されている人は、少なくとも全国19都道府県で129人(男性92人、女性37人、高齢者でない人も含む。各都道府県が公表している直近の人数を集計)に上る。保護期間は数年の人が多いものの、10年を超える例も珍しくない。

 認知症の人は保護されても名前や住所を伝えられず、丸1日警察署の長椅子に座りっぱなしというケースがよくある。その間、本人はもちろん家族の心労も激しく、また身元確認作業に追われる警察官の負担も大きいという。

 多くの自治体は行方不明者の情報を介護施設や郵便局などに伝える「SOSネットワーク」を作っている。ただ、自治体をまたぐ対応が可能なのは一部にとどまる。全地球測位システム(GPS)機器の貸与なども広く行われているものの、認知症の人はGPSを靴に仕込んでも脱いでしまうことがある。また、充電のし忘れで機能しないことも多いという。

 こうした現状を踏まえ、同機構は顔認証システムを使う「迷子.org」の開発に乗り出した。家族などの保護者は事前に独自のQRコードを通じてアプリを立ち上げ、認知症の人の顔写真や名前、保護者の連絡先を登録する。自治体、交通機関の職員、民生委員らは保護した人の顔写真を撮影し、アプリから「迷子センター」へ送信した後にアプリで検索すると、保護した人が登録済みの場合はすぐに身元が通知されてくる。

 個人情報保護の観点から捜索協力者のスマホにはカタカナ表記の氏名しか示されない。それでも画面をタップすれば自動で電話がかかり、保護者に連絡できる仕組みとなっている。登録用のQRコードは新聞紙面や小売店の店頭などに掲示される予定だ。登録には毎月550円かかる。

 長年構想を温め、都道府県と調整してきた同機構の尼崎光信顧問は「新システムは保護から身元判明までの時間を大幅に短縮でき、各方面から開発を強く求められていた。子どもや知的障害のある人にも対応できる」と言う。

 認知症の父親が行方不明となっている、NPO法人「いしだたみ・認知症行方不明者家族等の支え合いの会」(長崎市)の代表理事、江東愛子さん(47)は「私は身元捜索用にDNAを採取してもらったが、家族には苦痛でもある。最初から顔写真で済むなら有効でいいのでは」と話している。

2025年8月