東京都世田谷区経堂地区では2カ月に1度、認知症のある人も参加できる経験者向けのテニスサロン「あんすこオレンジテニス」が開かれている。同区の高齢者支援活動の一環で、経堂地区の「認知症アクションチーム」が4年前から運営している。認知症になって意欲を失い、家に閉じこもっていた人でも得意だったスポーツに再チャレンジすることで、昔の感覚だけでなく自信も取り戻して活動的になる例が少なくないという。
「もう一球お願い」「今のはラインぎりぎりに決まったね」
偶数月の金曜午後、あんすこオレンジテニスを支援している「スポーツクラブ ルネサンス経堂」の屋内テニスコートでは、70〜80歳代を中心とする参加者がラケットをふるっている。昨年末は認知症の当事者を含む65〜90歳の10人(男性4人、女性6人)が参加、テニス経験のあるケアマネジャーらの球出しでフォアハンドやバックハンドの練習を繰り返した後、試合形式で対戦した。75歳の女性は「自己流ですが若い頃の動きを思い出してきた」と話し、かつて野球でならしたという90歳の男性は「時間を持て余して始めたが、運動は楽しい」と笑った。
世田谷区は「認知症とともに生きる希望条例」(2020年10月施行)を制定するなど、全国に先駆けて「認知症になっても安心して暮らし続けることができる地域づくり」に取り組んでいる。その実行部隊がケアマネや民生・児童委員、薬剤師、ボランティアらでつくる「認知症アクションチーム」だ。チームは区内の各地にあり、落語や認知症講演会の開催など認知症のある人も楽しめるさまざまな活動をしている。
そのうち経堂地区のチームは催しの一つとして「あんすこオレンジテニス」を主催している。チームのメンバーでもある区の地域包括支援センター「経堂あんしんすこやかセンター」管理者の氏家雅史さんが地域のお年寄りと話すうちに「昔やっていたテニスをもう一度やりたい」と言われたのがきっかけだ。チームには株式会社ルネサンスの本杉優和課長代理もいて、企業として同社のコートを2カ月に1度、1時間半提供することになった。65歳以上のテニス経験者を対象とすることや、月1700円の利用料など詳細を詰め、22年春にスタートさせた。
認知症の有無にかかわらず、皆一緒に楽しめる場を作ることがテニスサロンの目的だ。ただ参加者を募集する際、「認知症」という言葉は使っていない。一般の高齢者も参加しやすくするためでそこはチームのジレンマでもあるが、名称に認知症支援のシンボルカラー「オレンジ」を取り入れ、ピンと来た専門職の人らに応募を働きかけてもらうことを目指した。毎回10人の募集に対して15人前後の申し込みがあり、参加者のうち4〜5人は認知症の人という回が多いという。
氏家さんによると、認知症が進んで自分では靴の脱ぎ履きの難しい人が、昔得意としたテニスとなると鮮やかなバックボレーを決めるなどし、驚かされるという。参加期間は長い人で1年半程度。オレンジテニスで自信をつけたのち、仲間を集めてテニスを始めたり、テニススクールに通ったりと次のステップに移る人も多いからだ。
氏家さんは「最初は球にかすらない方でも、1時間もすれば打てるようになる。人間のすごさを感じます。閉じこもりがちだった方が自信をつけ、生き生きしてくださることがうれしい」と話している。