2018.9.26
Interview

第3部(生活の器)の審査員に就任広瀬一郎さん(ギャラリー「桃居」店主)

新しい日本陶芸展がスタートに向け動き出しました。
新たに第3部(生活の器部門)の審査員に就任する広瀬一郎さんと松本武明さんのお二人に、いろいろなことをうかがいました。今回は広瀬さんのインタビューを公開します。(構成・三枝泰一)

――日本陶芸展がスタートして約半世紀。どのように見てこられましたか?

 私のギャラリーを始めて30年になります。日陶展はさらに20年近い歴史があるわけですが、陶芸界にとって、さらに広く見れば工芸界全体にとっても、転換期だった、という思いを強くしています。

 僕流の見方をすれば、明治以来の「近代陶芸史」という大きなストリートラインがうまく機能しなくなった。次のサイクルが来た、ということになります。

 1960年代から80年代までは、右肩上がりの経済の時代。個人作家の華々しい活躍が目を引き、強く、大きな表現が続きました。社会が望んでもいた。明治以降、西洋から入った「美術」という概念に対し、日本はその存在感を示すものとして「工芸」をアピールしました。陶芸はその象徴ともいえます。個人作家の発掘という流れは大正時代から続き、層も厚く、多様な表現が蓄積されていった。日陶展が始まった70年代というのは、まさにその頂点だったわけです。90年代、様相は変わった。「成長」から「成熟」の時代に移り、作家の個性を前面に押し出すのではなく、暮らしと密着した生活型の陶芸が主流になる。「自己主張」ではなく、使い手と作り手との「対話」、両者が押したり引いたりすることで作り上げていく陶芸です。

 底流には、作家の意識の変化がある。公募展で賞を取る、ということが必ずしも目標ではなくなる。過去の優品を前に置き、「自分にはこういうスタンスがある」とか「こういう作品を対置したい」というような強さではない。使い手の暮らしにいつも目を向け、自分の器がどのように使われているか、という視点で見つめ、刺激をもらう。同じ平面でキャッチボールをしているという感覚です。

――その流れの中で、日本陶芸展のあり方について、どのように思われますか?

 正直申し上げて、右肩上がりのスキームで作られた今のままでは、有意義な機能を発揮できるのか疑問があります。成熟社会への変化に対応できていない。少なくとも若い作り手にとって、ターゲットにはなっていない。

――厳しい評価です。

 公募展にはどうしても、ヒエラルキーを上がっていく、上昇志向というイメージがあります。これが今の若い作り手には薄い。感性の最大の違いです。

――公募展のあり方そのものが問われているということでしょうか。

 一つの可能性についてお話します。ITの進化で、みんな興味のあることはとことん深掘りするけれども、興味のないものはその存在すら知らないことも多い。若い作り手にも見られることです。ITで使い手と直接つながることによって、彼らはフィードバックし、成長している。逆に、つながっていない領域を知る機会は、以前よりもずっと少なくなっている。「島宇宙」の中で生きている。

 公募展の主催者が、これをつなぐ役割を果たせ、ということです。実際に見れば、自分の知らない世界が広がっている、という環境をつくりだせばよい。主催者が描く「今の陶芸シーンはこれだ」という場所です。展示構成をシャッフルするくらいでは足りない。スキームを刷新するくらいの改革が必要でしょう。主催者の言葉で語ってください。

――「生活陶芸」の将来についてはどのように考えられていますか?

 2020年代以降、「生活陶芸」の一人勝ちといわれる状況は終わるのではないでしょうか。大衆化が行き着くところまで行き着けば、次の波が来ると思います。

 作り手と使い手もレイヤー(層)に分解・分化する。コアな陶芸ファンと、それ以外のたくさんの層に分かれます。「生活陶芸」の時代には、「シンプル」「プレーン」「アノニマス」といった共通素因があった。白い陶芸がすごくもてはやされた時期もあった。でも、この数年は、こういった素因ではくくれない作品が現れている。分解・分化し、たくさんの「島宇宙」が生まれていく。

――日本陶芸展は、そこを見通す役割を担うべきだということでしょうか。

 ギャラリーは「作り手」と「使い手」の「つなぎ手」です。島宇宙を衝突させて、「化学変化」をさせていくのが私の仕事です。 島宇宙化し、共通因子が失われ、共通理解の軸が見えなくなっていく中でこそ、俯瞰的な視点が必要になる。日陶展の役割はそこにあると思います。

広瀬 一郎 HIROSE ICHIRO
1948 (昭和23) 年東京都生。工芸ギャラリー桃居 店主。
慶応義塾大学 法学部卒。
出版社勤務、飲食店経営を経て、1987(昭和62)年より、東京都港区西麻布にて、生活に寄り添う工芸を扱うギャラリーを営む。

※次回は、ギャラリー「うつわノート」店主の松本武明さんのインタビューを公開します

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