第1回 運転免許証 家族の真剣さ伝え 返納促して
認知症の家族が運転免許証の返納を説得する方法
臨床心理士・公認心理師
今回のテーマは運転免許証です。運転免許証の返納を考えるのは、高齢になった時、軽度認知障害(MCI)や認知症の診断を受けた時、認知症の兆候が見えた時など、状況によって違うと思います。交通の便のいい地域に住んでいる場合は、車がなくてもあまり不自由はしないかもしれません。しかし、車が足代わりとなる地域であれば、車は生活の命綱でもあります。また、運転が好きな人、趣味活動の移動手段として使っている人なら、免許証の返納は生きがいの喪失にもなります。
免許証の更新で認知機能検査(75歳以上は義務化されています)を受ける当事者からは「最近、物忘れが目立ってきた。認知症ではないか」「検査に落ちるのではないか不安だ」といった訴えがよく聞かれます。必死さの裏に、「生活手段に欠かせない」との強い思いが伝わってきます。
また、ご家族から「認知症の症状があっても運転を続けている」との相談も寄せられます。「運転して出かけたが、駐車した場所を忘れてしまった」「車に傷をつけることが増えた」「認知症ではあるが不便な場所に住んでいるので車は欠かせない」などです。
多く寄せられるのは、「運転をやめるように言っても認知機能が低下しているとの自覚はなく、大丈夫と言い張る」「運転しないと約束するが、その約束さえ忘れてしまう」といった相談です。
まずは安全が最優先です。認知症の状態が軽度のうちに運転をやめる約束をすることが大切です。決断は揺らぎやすいので、「とても大事なこと」だと認識してもらう意味でも、家族がそろって本人と膝を突き合わせて決意を促すことが大事だと思います。
私の舅(しゅうと)は75歳を過ぎたころ、運転中にぶつける、田んぼに脱輪するなどの自損事故が重なりました。「優良ドライバーだったのに。おかしい」と姑が心配し、運転をやめるよう説得することにしました。
説得には、私と夫で一緒に出掛けました。ドライブが好きでしたし、買い物に車が欠かせない地域でもありましたので、舅は抵抗しました。それでも、こちらが心配する気持ちを強く伝えるうちに家族の真剣さをくみ取り、最後は運転をやめてくれました。そしてその後、舅は認知症の診断を受けました。
説得の席では、免許証を返納する代わりに買い物の手伝いは息子たちが交代で行うなどの約束もしました。日々の不便さは、姑の友人や隣人に買い物の手伝いも頼みながら、スーパーの宅配も活用して乗り切りました。姑の決断の速さと、日々の相談を通じて得た私の知識が役に立ったと思います。
運転をやめることを納得してもらうには、家族の真剣さを伝えると同時に、私が舅にしたように「運転できなくなることで生じる不便」への対策についてもその場で示すのがいいと思います。ご夫婦だけの場合は、地域包括支援センターの職員など第三者に入ってもらうといいでしょう。