ひとりで抱えない 専門職が答える認知症相談

第3回 介護のイライラ/自分を責めず 誰かに相談して

認知症や物忘れに関する悩みや不安について、専門職が具体的にアドバイスする隔月連載の相談コーナーです。 家族の対応、生活支援など、日々の暮らしに役立つヒントをお届けします。

介護のイライラは自然な感情 一人で抱え込まず相談を

中田京子さん(臨床心理士・公認心理師)
中田京子さん
臨床心理士・公認心理師

 認知症の相談で多いのが「介護ストレス」です。ストレスの内容はさまざまで複雑です。今回は「怒り」をテーマにします。

 昨年までは有料老人ホームで暮らす認知症の母との日々を綴(つづ)る連載をしていました。読者の方からの感想の多くは、「親の介護をしているけれど書いてあるように優しくできない」「寄り添えない」でした。介護の日々にイライラや怒りはついて回ります。母を在宅で介護している時期は私も同じ気持ちでした。更に祖母も認知症で、介護者の感情をかき乱すタイプでした。

 祖母は地方で1人暮らしをしていました。近所の親戚が見守ってくれていましたが、高齢で認知症状も現れたことから、母が引き取りました。父も同居を了解していました。ところが、同じことを何回も話す、確認する、頼んだことを忘れる祖母に周囲のイライラは増すばかり。「これ頼んだよね?」と言うと、忘れたという自覚はなく言い訳をします。祖母は外出好きで話好きでしたので、思いつくと出かけて、時には近所の家に上がってお喋(しゃべ)りをしていることもありました。「大変な迷惑をかけている」と祖母に注意しても、同じことを繰り返しました。

 仕方なく、無断で出ないよう玄関に張り紙をして二重の鍵を付けました。でもこれも外してしまい、効果なしでした。やがて祖母が近所で、「可哀そうなおばあさん」として有名になっていると知った時の母の感情は爆発しそうでした。私は「近所の人たちも本気で言っている訳ではないでしょう」と母を慰めましたが、父母の堪忍袋の緒は切れ、祖母が近所に迷惑をかけていることも家族の神経を逆なでしました。玄関を出ようとする祖母を、父が怒りながら制止している姿を思い出します。この頃は祖母の常識を超えた行動に困り果てていました。限界とも思えたこの状況では、「優しく」「寄り添う」は感情的に困難と思います。認知症で判断力が低下した祖母が近所への訪問を繰り返すのは仕方ないこと、と頭では理解できても、感情的な面で我慢の限度を超えていました。

 これほどの状況でなくても、日常の些細(ささい)な事の積み重ねが、怒りの沸点を超えさせてしまいます。また、「また怒ってしまった」と罪悪感に捕らわれることもあります。これはお互いに責めようのないことなのです。

 とはいえ、こうした家族間の不和が続くことは避けたいものです。祖母の場合は、ショートステイが救いとなりました。そして、ショートステイ先が老人保健施設でしたので、ショートステイを繰り返すうちに入所につながりました。時々、在宅介護を試みては入所する形をとることで、祖母とのベストの距離ができていました。大切なのは、介護者が「自分のやり方が悪い」と自分を責め、もやもやした思いを抱え込まないことです。誰かに相談してみましょう。まずは、匿名でも可能な「認知症110番」を利用するのが早いかもしれません。

執筆者プロフィール

中田京子(なかた・きょうこ)
臨床心理士・公認心理師。
現場で認知症に関する数多くの相談に対応し、「認知症110番」相談員として活動。 高齢者や家族の心理支援に長年携わっている。