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鍼施術で物忘れ対策/東・西医学融合し「一人でも多く救いたい」

佐川さんの著書

 認知症専門鍼灸(しんきゅう)師の佐川聖子さんは、物忘れ対策として東洋医学の一つ、鍼(はり)による施術を広め、西洋医学と融合させることを志している。東・西コラボに向けた第一歩として、認知症治療に高い実績がある「アルツクリニックPETラボ」(東京都新宿区、理事長・新井平伊順天堂大名誉教授)内にスペースを確保し、毎週1回の施術(現在は水曜日)をスタートさせてから7月で1年を迎えた。

 「体が軽くなった」「積極的になったんですよ」。佐川さんの施術を受けた人や家族はそうした感想を口にする。ただ、認知症専門鍼灸師は全国で約270人しかおらず、施術も広くは知られていない。佐川さんは普及を図ることで認知症や軽度認知障害(MCI)の人はもちろん、「家族ら介護者の人のケアもしたい」と話す。それは、「私のような苦労や思いはしてほしくない」と強く願っているからだ。

 佐川さんは総合商社勤務を経て、幼稚園教諭となった。10代からの希望だった幼児教育にずっと携わるつもりだった。ところが2011年、母の物忘れが始まったことが転機となる。症状はうつや暴力を伴うようになり、翌年にはレビー小体型認知症の可能性と診断された。以降、何軒もの医療機関にかかったものの、母の症状は進行する一方。父からの「助けてくれ」との電話で駆けつけると、家中の家具がひっくり返されているようなことが続き、終わりの見えない介護にベランダから身を投げることも頭をよぎったという。

 限界を感じていた頃、図書館で東洋医学の本に触れ、鍼を知った。わらにもすがる思いで母を鍼灸院へ連れていくと、以前のように穏やかになることが増えてきた。更に認知症研究で著名な鍼灸師を紹介されて通い始めると、母は笑顔を取り戻すようになった。

 しかし、年末年始に次の施術までの間隔が空いたのを機に、再び激しい暴力を振るうようになった。仕事と介護と子育てのトリプルワークに疲れ果てた佐川さんは「もう自分たちでは無理」と悟り、15年に母を入院させた。それでも向精神薬での回復は見込めず、外出許可を得て再び鍼に連れ出した。すると母は送迎を頼んだタクシーの運転手から「(施術後は)まるで別人だね」と言われるほど優しい顔になり、佐川さんは「自分でも母に施術をしてあげたい」と望むようになった。そして専門学校に3年通い鍼灸師の国家資格を得た。47歳になっていた。

 鍼灸院で3年勤務した後、東京都港区で開業(現在は品川区に移転)した。その間、上級の認知症専門鍼灸師の資格も取得した。ただ、経営を維持するには間口の広い美容中心とせざるを得ず、「認知症の関係も手がけたい」との思いはなかなかかなわなかった。

鍼施術をする佐川さん

 それが開業から6年たった昨年、「認知症の人と家族の会東京都支部」の世話人としても活動する中で、新井理事長と知り合った。「1クリニックに1鍼灸師」という自身の夢を語ると新井理事長もうなずき、「診療所内の空き部屋を使ったらいい」と快諾してくれた。

 佐川さんの施術は「三焦鍼法(さんしょうしんぽう)」を中心とする鍼灸だ。ツボを刺激してスイッチを入れ、上焦(心・肺)、中焦(脾・胃)、下焦(肝・腎)の三つが活性化することで臓器が正常に機能し、脳機能にも影響を及ぼすとしている。約15年前から認知症専門鍼灸師の資格を認定している法人によると、認知機能テストが改善する事例も積み上がっているという。

 21年秋、母は最後の2カ月を自宅で過ごし、亡くなった。佐川さんは母に笑顔を取り戻した鍼灸の力を信じ、「認知症の方、介護に苦しむ家族を一人でも多く救いたい」と決意を口にしている。

 問い合わせは「鍼灸サロンSeria」(080・7610・1338)へ。