過疎地での介護サービス維持を主眼とした改正介護保険法が先の特別国会で成立した。2027年4月1日から順次施行される。介護の人材確保が難しい中山間・人口減少地域では基準より少ないスタッフでも事業者が介護サービスを提供できるようにするほか、それでもなお事業の継続が困難な場合は市町村による事業に切り替えられるようにする。ただサービスの質低下や地域間格差の拡大を懸念する声も根強く、認知症の人と家族の会は「介護の社会化を目指した制度の理念を根底から揺るがす」と批判している。
介護保険ではサービス提供に必要なスタッフの数や設備の基準を厚生労働省が定めている。訪問介護事業所ならホームヘルパーを常勤換算で「2・5人以上」抱える必要がある。しかし、賃金水準が他産業平均を下回る介護職の確保はただでさえ難しい。過疎地となればなおさらだ。そこで厚労省は介護保険に中山間・人口減少地域に限定した「特定地域サービス」を新設した。「特定地域」では現在の基準より少ない人員でもサービスの提供を可能とする。
利用者が点在する人口減少地域での訪問介護はヘルパーらの移動に時間を要する。回数に応じて介護報酬が支払われる現行の仕組みでは、収益が安定しない事業者も少なくない。このため訪問系サービスの事業者は、訪問回数によらず月単位で定額の収入を得られる介護報酬体系も選べるようにする。厚労省は「特定地域サービス」の対象となる地域や当該地域の人員配置の基準を詰めた上で、2027年度中に導入する意向だ。
「特定地域サービス」の新設には「地域差に合わせて柔軟に運用できる」という評価が寄せられている一方で、「地方切り捨てにつながる」との指摘もなされている。配置する人員が基準を下回ればサービスの質の低下や、スタッフの労働強化と疲弊による離職を招き、一層の人材難に陥りかねないというものだ。
また人員基準を緩和してもサービス提供が難しい場合、市町村による事業(特定地域居宅サービス等事業)を可能にした点にも懸念が示されている。介護保険の財源を使うとはいえ、予算に上限が設定されている市町村の介護予防事業「地域支援事業」の枠組みを広げて実施するため、財源の枯渇でサービスが縮小したり、市町村の持ち出しが増えたりする可能性がある。認知症の人と家族の会は「居住地域によってサービスの質や保障に格差が生じ、(全国一律の)介護保険の理念がなし崩しになる恐れがある」と訴えている。
今回の改正法では住宅型有料老人ホームの入居者を対象に、これまで無料だったケアプラン(介護計画)作成時の自己負担を導入する。厚労省は「基本料にケアプラン作成費が含まれる特別養護老人ホームなど介護付き施設との公平性を図った」と説明する。自宅で介護サービスを受けている人のケアプランは引き続き無料だが、「いずれ介護保険利用者全員に自己負担を求める布石」と見る関係者は多い。
また中重度の要介護者や認知症の人を入居対象としている有料老人ホームを従来の届け出制から登録制に改めるほか、ホームを運営する事業者に対し、同一・関連法人が提供する介護サービスの利用を入居条件とすることを禁じる。ホームの運営者が介護事業所を併設し自ら提供するサービス利用を入居者に強要する「囲い込み」が問題視されているからだ。ただし、ホームの運営者が別法人を設立するといった「抜け道」づくりを防げない可能性は残る。
①中山間・人口減少地域を対象に「特定地域サービス」を新設
・全国一律の人員配置基準を緩和
・月ごとの定額報酬を選択可能とする
・市町村が介護サービスを提供する「特定地域居宅サービス等事業」を新設
②住宅型有料老人ホームの入居者向けケアプラン作成に自己負担導入
③有料老人ホームの不祥事防止対策の強化
・中重度の要介護者らを対象とするホームに登録制を導入
・ホームの運営者や関連法人の提供する介護サービス利用を入居要件とする「囲い込み」を禁止
・かかりつけ医、ケアマネジャーの変更強要を禁止
④既存サービスとの重複が指摘される「夜間対応型訪問介護」を廃止し、「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」に統合