2010年ケニア・エチオピア ケニアから 乾きと命 (6)

マラリアによる高熱で大粒の汗を流すデスモンド・シバチ君=ケニア・カカメガ近郊で2010年7月6日、小松雄介撮影
ケニア南西部の町カカメガ近郊の公立病院。7月6日、小児病棟のベッドでデスモンド・シバチ君(4)は看護師が手にした注射針を見て泣き叫んだ。「ママー」。熱っぽい額には汗がにじみ、目から涙がこぼれ落ちる。39度の高熱に嘔吐(おうと)やせきの症状があり、マラリアと診断された。
母エバリン・ビタリさん(30)は「毎年この時期は蚊に刺され、マラリアにかかる。夜は蚊帳の下で寝かせているのに……」と表情を曇らせる。8床の小児病棟はマラリア患者で埋まり、廊下では子を抱いた母親が診察を待って行列を作る。医師は「昨年の3倍近くの患者数だ」と話す。
ケニア・カカメガ
ハマダラカを媒介に感染するマラリアは多くの命を奪う。世界保健機関の推計では、08年の死者86万人の89%はアフリカで、大半は5歳以下の子どもだ。ケニアでは感染地域でなかったカカメガのような標高1500メートル以上の高地でも80年代以降、大流行が起きる。
高地でのマラリアの流行と気候変動との関連にはさまざまな議論があるが、ケニア中央医学研究所のブライソン・ンデンガ研究員は「地球温暖化で高地でも蚊の体内のマラリア原虫が成長できるようになったことや、人口増に伴い、蚊の繁殖に適したため池などが増えたことも一因と考えられる」と話す。
病院の近くの村に住むシルビア・リハビさん(18)は6月中旬、生後2カ月半の長女セレナちゃんをマラリアで亡くした。「急に高熱が出て母乳を飲まなくなった。風邪と思ったが、病院でマラリアと……。入院2日目、震えが止まらず激しく泣いた後、突然動かなくなってしまった」
丸々と太り、よく笑う子どもだったという。「これもよく似合っていたのに」と、出産後に買った花柄のワンピースをひざに広げ、黙り込んだ。同居する母のテレシア・アチツァさん(59)は言う。「約30年前には蚊はおらず、マラリアとは無縁の地域だった」
気候変動の波にさらされ、消えゆく幼い命。訴えかけるように見つめる子どもの目が心に突き刺さった。【遠藤孝康】=おわり