主な事業/国際協力に関する事業(世界子ども救援事業)

2017年東南アジアの零細金採掘 輝き探す闇 (5)

川底に掘った穴から金鉱石などを採掘するコンプレッサーマイニングの現場で働くウィンシー・リャーミスさん=フィリピン・カマリネスノルテ州ホセパガニバンで

川底に掘った穴から金鉱石などを採掘するコンプレッサーマイニングの
現場で働くウィンシー・リャーミスさん
=フィリピン・カマリネスノルテ州ホセパガニバンで

 コーヒー牛乳のような色の川。木の枠で囲われた50センチ四方の穴に半裸の労働者たちが小舟から飛び込む。フィリピン・カマリネスノルテ州ホセパガニバンのティグビ川。男たちは川底を掘り、金鉱石や金の混じった砂を採る。空気を送り出す機械(コンプレッサー)を使いチューブをくわえて潜ることから、「コンプレッサーマイニング」と呼ばれる。零細小規模金採掘(ASGM)の手法の一つだ。

 照りつける太陽の下、白いチューブをくわえ、ウィンシー・リャーミスさん(17)が、水深1・5メートルの川に潜った。見習いのため、穴周辺の川底に散らばったわずかな金鉱石を回収する作業。陸に上がると、寒さで震えが止まらなくなった。「潜水時間は30分が限界。まだトレーニング中なんだ」

 近くで生まれ、9人きょうだいの5番目。父(56)がASGMの元労働者で、上の兄3人も同じ道に進んだ。12歳の頃、コンプレッサーマイニングをしていた父が肺の病気で倒れ、仕事ができなくなった。「家計を支えて両親の助けになりたい」。父や兄の背中を追うように働き始めた。

 週6日、川のほとりにある小屋の床で寝て、午前7時から午後3時まで働く。学校には行っていない。雇用主からもらえる収入は日本円にして週平均約1万円。すべて母親に渡す。水銀を使い金を精製する作業もする。途中で発生する水銀蒸気で中毒症状を起こす恐れがあり、「なるべく吸い込まないようにしている」と話す。

 年長の作業員は川底から10メートル以上掘った穴の底まで潜り、金鉱石を採る。1時間以上潜り続ける先輩もざらだ。「大変な重労働。父が肺を病んだのも、仕事の影響があると思う」。今は先輩たちのサポートが中心で、時折穴に潜ることもある。自身の健康について尋ねると、「心配はしていないよ」と笑った。

カマリネスノルテ州ホセパガニバン

 潜水医学の専門医、山見信夫さん(54)は、水中の高圧下で体へ大量に溶け込んだ窒素が気泡となり、関節痛や中枢神経の障害をもたらす「減圧症」のリスクを指摘する。「長い時間、毎日潜ることで窒素が蓄積されるため、十分な休みを取る必要がある」と話す。

 気泡が骨の血流を低下させ「減圧性骨壊死(えし)」を引き起こす恐れもある。太ももの骨などの組織が壊れる病気だ。「骨の成長が止まる恐れがあり、育ち盛りの子どもは絶対に避けるべき病気。深く潜らせないようにしなければ」

 ただ、家族を支えたいウィンシーさんに仕事を控える気はない。訓練をして、もっと深く、もっと長く潜るつもりだ。【文・畠山哲郎、写真・川平愛】=おわり

 

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