主な事業/国際協力に関する事業(海外難民救援事業【旧「世界子ども救援事業」】)

2017年東南アジアの零細金採掘報告【特集】

危険の隣 夢みつめ

学校で意識改革

学校で友達と過ごすアドニス・スララ・ジュニアさん。6月から2年ぶりに学校に復帰した=フィリピン・カマリネスノルテ州ラボで

学校で友達と過ごすアドニス・スララ・ジュニアさん。
6月から2年ぶりに学校に復帰した
=フィリピン・カマリネスノルテ州ラボで

 「水銀蒸気を吸うと、息苦しくなり頭痛や手の震えなどの症状が出ます。危険なので、できるだけ吸わないようにしましょう」

 フィリピン・カマリネスノルテ州ホセパガニバンのルナ小学校。環境NGO「バントクシックス」のノエル・パーシルさん(46)がパソコン画面を見せて説明すると、14人の児童は真剣な表情で耳を傾けた。

 参加したジョラン・スシランさん(12)はASGMで金精製をしている。「水銀の怖さが分かった。蒸気を吸い込む作業はもうやめる」と誓った。

 バントクシックスは学校を回り、水銀の危険性を訴えている。ASGMの現場では教育を受けず水銀の危険性を知らない人が多く、子どもから意識を変えていく狙いだ。16年からは大人向けの講義もしている。

 児童労働を解消する取り組みも進む。同州ラボのアドニス・スララ・ジュニアさん(16)は父が病に倒れたため通学を断念し、ASGMで働いていたが、バントクシックスの働きかけでこの6月、2年ぶりに復学した。「いろいろなことを学んで、将来別の仕事もできるようになりたい」

 国際労働機関(ILO)フィリピン事務所は、ASGMでの児童労働を改善する計画をバントクシックスと進める。担当するアーリーン・グレイス・タグバさん(35)は「ASGMは世代で受け継がれてきた労働。子どもを働かせてしまう親の考え方も変えないといけない」と話す。

 一方、水銀を使わずに金を精製する設備を個人で導入する動きもある。砕いて砂状にした金鉱石を細かなくぼみがついた布に流し、重い金をくぼみにためる仕組みで、最終段階では別の薬品を使う。カマリネスノルテ州の施設で働く男性(59)は「効率は悪く、水銀を使った場合に比べ時間は数倍かかるが、体にも環境にもいい」と喜ぶ。

 同州で稼働しているのはまだ2カ所。ノエルさんは言う。「将来は皆が使う公共施設として普及させ、水銀使用をなくしたい」

 ◇水俣条約、日本にも期待

 水俣条約の発効で、各締約国は今後、国内のASGMでの水銀削減対策が求められる。日本では、水銀の分析技術を海外へ伝える活動や、水銀を使わずに精製した金を高額で販売する制度の研究が進んでおり、ASGMが盛んな国への支援が期待されている。

 国際協力機構(JICA)は10月、フィリピンなどの担当官ら計10人を招き、大阪市の研究機関などで土壌や大気の水銀濃度を測る実習をした。「ASGMでの汚染実態把握には、調査できる人材の育成が重要だ」と担当者は話す。

 2015~17年、JICAは国立水俣病総合研究センターの専門家3人をニカラグアへ派遣し、工場排水による水銀汚染が懸念された湖の調査や技術支援をした。ニカラグア政府側は、習得した技術をASGM対策に生かす意向を示したという。

 広島大の布施正暁准教授(環境工学)らは「エシカル(倫理的な)ジュエリー」制度の導入を研究する。宝飾業者がASGM側と協定を結び、水銀を使わず精製した金を高額で買い取り、社会や環境に配慮した貴金属として売る仕組みだ。「途上国では水銀や児童労働で金が生み出される。日本の消費者も金の宝飾品を買う際には、出所を意識する必要がある」と指摘する。

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