主な事業/国際協力に関する事業(世界子ども救援事業)

2020年小さな声 -コロナの陰で-

閉ざされる自立の道

ミャンマー

ミャンマーのヤンゴンに住むアウンカウンミャッさん(右)と母のキンマーテイさん。コロナ禍の中、将来への不安を募らせる=難民を助ける会提供

ミャンマーのヤンゴンに住むアウンカウンミャッさん(右)と
母のキンマーテイさん。コロナ禍の中、将来への不安を
募らせる=難民を助ける会提供

 国軍がクーデターで民主政権を転覆したばかりのミャンマーの最大都市ヤンゴン。北西部に住む公立高校1年生、アウンカウンミャッさん(16)は脳性まひのため自力で歩けない。理学療法士に自宅へ来てもらい、リハビリ指導を受けながら車椅子で高校に通ってきたが、新型コロナウイルスで生活は一変した。

◇ミャンマー

 政府の指示で昨年3月末から全ての学校が休校に。公立高だけは一旦7月末に再開したものの、感染者が増えて1カ月もたたずに休みになった。感染者の累計は約14万人。学校再開のめどは立たず、アウンさんは家で自習する日々が続く。

 ミャンマーで2000年から障害者の職業訓練校を運営し、現在約30人の障害児を支援するNPO法人「難民を助ける会(AAR Japan)」(東京都品川区)は感染を防ぐため、4月上旬に理学療法士の派遣を休止した。アウンさんはAARがリハビリの仕方をまとめた本を見て、テレビ電話で月に2回20~30分、理学療法士の指導も受けながら筋肉マッサージやストレッチをしている。それでも「前は友達とたこ揚げなどをして当たり前のように体を動かしていた。今は筋力の維持が難しく、体が重い」と不調を訴える。

 国勢調査(14年)によると、ミャンマー国内には少なくとも人口の4・6%にあたる約230万人の障害者がいる。15歳以上の障害者のうち、読み書きができない人は約3割に上り、障害がない人の場合の約1割を大きく上回る。15年に雇用促進などを定めた障害者権利法ができたものの、法定雇用率が決まっていないなど、福祉政策は十分ではない。

 アウンさんの母親のキンマーテイさん(48)は「障害者が自立するためには教育が必要。教師を目指している息子は今後どうやって学んでいくことになるのか」と心配する。「感染したら入る隔離施設も、障害のある息子にきちんと対応してくれるか分からない」と不安を募らせる。

 一家は経済的な問題も抱える。父親は大工で月1万5000円ほどを稼いでいたが、コロナで収入が途絶え、家財を売ったり、借金をしたりした。1日にクーデターが起きた後、生活に大きな変化はないというが、先行きはますます不透明だ。

 AARでヤンゴンを担当する大城洋作さん(34)は「支援する家庭は日雇い従事者が多く、コロナで仕事をなくして食事にも困っている。ミャンマーは夫婦共働きが多いが、障害児のいる家庭は介助のため一人しか働けないケースが多く、打撃はより大きいのではないか」と言う。

 ミャンマーでは一部に「生まれた時から障害があるのは前世で悪い行いをしたからだ」という偏見も残っている。AARは毎年、障害児の保護者を対象にした集会も開いてきたが、コロナ禍でできていない。「障害のある子や家族が孤立しないよう、できる限りのことをしていきたい」。大城さんは力を込めた。【宮川佐知子】

 

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