主な事業/国際協力に関する事業(世界子ども救援事業)

2020年小さな声 -コロナの陰で-

紛争 学ぶ希望襲う

スーダン

困難を乗り越え、修了式を迎えて喜ぶスーダン・カドグリの補習学級の子どもたち=日本国際ボランティアセンター提供

困難を乗り越え、修了式を迎えて喜ぶスーダン・カドグリの
補習学級の子どもたち=日本国際ボランティアセンター提供

 北アフリカ・スーダンの南部に位置する南コルドファン州の州都カドグリ。屋根と壁だけの簡素な校舎の前で昨年12月、補習学級の修了式が開かれた。親や先生たちに囲まれ、ピンク色の成績表を手に喜ぶ子どもたち。その中にマルガニ・ハジャム・クワさん(16)の笑顔もあった。だが、多くの友達はその日を迎えることができなかった。

 30万人が犠牲になったともいわれるダルフール紛争など、各地で内戦を抱えてきたスーダン。2019年4月に30年続いた独裁政権が崩壊し、昨年10月には政府と複数の反政府勢力が和平合意に調印したが、一部の勢力は加わらず、平和の道筋はまだ見えていない。

◇スーダン

 2010年から南コルドファン州でインフラ再建などに携わる日本国際ボランティアセンター(JVC、東京都台東区)は昨年1月、紛争で住み慣れた土地を追われたり、教育費が払えなかったりして学校に行けなかった7~15歳を対象に5カ所で補習授業を始めた。公用語のアラビア語の読み書きや算数など、地元の学校に通うための基礎を身に付けてもらうのが狙いだ。

 JVCの今中航さん(32)によると、マルガニさんは11年に州内で武力衝突が起きたのを機に親元を離れ、隣国・南スーダンのイーダ難民キャンプに避難した。紛争が落ち着き、昨年2月にスーダンに戻り、農業をしている父親とカドグリで暮らし始めた。難民キャンプでは英語で教育を受けていたためアラビア語が書けず、補習学級に入った。

 翌月、新型コロナウイルスの影響で全国の学校が休校になり、補習学級も中断した。カドグリでは5月に異なる部族の武装勢力の衝突が発生し、死者や負傷者が出て放火や食料の略奪も起きた。マルガニさんの家も壊された。9月に補習学級は再開できたが、約490人いた生徒の3割近くは戻らなかった。武力衝突後、遠方に避難したほか、首都ハルツームで5カ月続いたロックダウン(都市封鎖)の影響で経済が悪化し、厳しくなった家計を助けるため働き始めたと考えられるという。

マルガニ・ハジャム・クワさん=日本国際ボランティアセンター提供

マルガニ・ハジャム・クワさん
=日本国際ボランティアセンター提供

 「マルガニ君は戻ってくるだろうか」。今中さんの不安をよそに、元気な姿を見せてくれた。「また勉強ができて幸せ」。12月の修了試験ではアラビア語で満点を取った。「将来のことは分からない」と言っていた頃の不安そうな表情は消え、「医者になって困っている人を助けたい」と夢を抱く。

 補習学級を巣立った約380人は1月から公立学校に通う。国連人道問題調整事務所によると、スーダンのコロナの感染者は約2万7000人。このうち南コルドファン州は検査態勢が整っていないこともあり32人と少ないが、分散登校が続く。JVCは、学校に入る際の初期費用の免除を申し入れた。今中さんは言う。「長引く不況で教育を断念する家庭が出る懸念もある。継続して通学できる仕組み作りや保護者の意識向上に取り組みたい」【宮川佐知子】

 

Back

Next