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2020年小さな声 -コロナの陰で-

遠のく医療 命の危機

ウガンダ

末娘ペイシェントちゃんを見つめる母グレースさん(右)。「また移動制限で医者にかかれなくなったら」との不安が消えない=NPO法人「テラ・ルネッサンス」提供

末娘ペイシェントちゃんを見つめる母グレースさん(右)。
「また移動制限で医者にかかれなくなったら」との不安が消えない
=NPO法人「テラ・ルネッサンス」提供

 東アフリカ・ウガンダ北部のグル県。静かな村で夫と農業をして6人の子どもと暮らすグレースさん(37)は悲痛な声で訴えた。「また同じことが起こったらと思うと、不安でたまらない」。新型コロナウイルス対策のロックダウン(都市封鎖)で、マラリアや下痢に苦しむ子どもたちが医者にかかれなかった悪夢がよみがえる。

 ウガンダ北部では2006年まで約20年、政府と反政府勢力の戦闘が続いた。グレースさんも内戦で心身を傷つけられた一人。12歳の時、反政府勢力に拉致された。現在の南スーダンの首都ジュバ近くの村で20歳近く年が離れた兵士と強制結婚させられ、3人の子どもを産んだ。

◇ウガンダ

 21歳だった2004年、政府軍に捕らえられてウガンダに戻ることができたが、周囲から「人殺し」と呼ばれるなど差別と偏見に苦しんだ。2005年から子ども兵だった人たちの社会復帰を支援するNPO法人「テラ・ルネッサンス」(京都市下京区)のカウンセリングや職業訓練を受け、ようやく今の生活を手に入れた。

 ウガンダで新型コロナの1人目の感染が確認された昨年3月21日、エボラ出血熱の流行も経験した政府はその日のうちに国境の閉鎖を、4日後に公共交通機関の停止を命じた。4月には全土でロックダウンに踏み切るなど、厳しい対策を次々と打ち出した。移動制限が続く中、グレースさんの子どものうち4人がマラリアや下痢に襲われた。末娘ペイシェントちゃん(3)は6月から、黄熱病が原因とみられる高熱が2カ月も続いた。

 ウガンダは衛生環境が悪いため感染症が横行し、16年の調査では16人に1人が5歳になれずに死亡した。世界保健機関(WHO)によると、1万人当たりの医師の数は1・68人で、日本の14分の1。中でもグル県がある北部地域は、内戦が続いた影響で医療施設の整備が遅れている。それでも命の危険がある時は、10キロ以上離れた大きな病院まで行けば「無料で診察を受けられた」とグレースさんは言う。

 しかし、移動制限で市民の足であるバイクタクシーが使えず、行けなくなった。数㌔の所にある小さな診療所は「払えないほど高い診療費を取るから金持ちしか行けない」。物価の急上昇などを受けて1日1食に切り詰める中、マラリアの重い症状に苦しんだ長女(21)には、なんとか手に入れた薬を半分に割って少しずつ飲ませた。テラ・ルネッサンスの小川真吾理事長は「北部最大規模の病院では一時期、外来患者が通常の3分の1以下に減った」と話す。

 人口約4000万人のウガンダで確認された新型コロナの感染者は約4万人、死者は約300人。一方、WHOの推計によると、18年にはマラリアで約1万2000人が死亡している。「政府がコロナ対策を優先するあまり、よりリスクの高い感染症の予防や治療がおろそかになっては意味がない」。小川理事長は危機感を募らせている。【宮川佐知子】=おわり

 

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