2010年ケニア・エチオピア ケニアから 乾きと命 (2)

今年5月の洪水で流された集落の跡地は、その後の乾燥でひび割れていた
=ケニア・トゥルカナ地方で2010年6月29日、小松雄介撮影
「3人の孫、庭のあった家、数百頭の家畜………。干ばつと洪水がすべてを奪ってしまった」。ビーズを使った伝統的な首飾りをした女性は天を仰いだ。ケニア北西部のトゥルカナ地方。今年5月、村を襲った突然の洪水は、幼い命と集落を流し去っていた。昨年までは干ばつの被害に苦しめられていた。極端に変化する天候に人々は翻弄(ほんろう)され、悲しみに沈んでいた。
リドワン・アブドゥラヒちゃん。昨年9月から、母親のデカ・ユーゼフさん(41)とエチオピア南東部の町ドロアド近郊にあるボコルマヨ難民キャンプで避難生活を送る。
6月末、ロドワー郊外にあるソウェト村を訪れた。土壁に草ぶきの家が並ぶ集落を抜けると、白砂の大地が広がっていた。「洪水の前はここに約350世帯の集 落がありました」。村民のウィルソン・エカレさん(42)の言葉に耳を疑った。集落は消え、乾いた大地には亀裂が走っていた。
家を失った人々は近くの丘の中腹に小屋を建て、暮らしていた。「トイレ」となった草場から悪臭が漂う。洪水で3人の孫を失った女性、エロイヤ・ポーリンさん(61)は災害の様子を振り返った。
激しい雨が1日降り続き、家から約1~2キロ離れた川がはんらんしたのは5月10日夕方。エロイヤさんは急いで家に向かった。家にはエカイ・エムリア君 (7)、アトットちゃん(5)、ナンゴコルちゃん(3)がいた。家に近付くと、胸まで水につかった。濁流の中にエカイ・エムリア君を見つけ、片足をつかん だ。「それも一瞬。激しい流れが彼を押し流した。後は家と家畜が流されるのを見つめるだけだった」
4人いた兄弟で1人だけ生き残った兄ナコウコン君(10)は目に涙を浮かべ「(兄弟と)もう一緒にサッカーができない」とつぶやいた。母エイエン・カシンガさん(43)は一言も発せず、遠くを見ていた。当時町中にいて、村へ戻った時にはすべてが流されていたという。
ラクダやヤギを飼って生活していた。3年間の干ばつで約200頭が死に、残る約50頭は洪水で流された。エロイヤさんは「食べ物もお金もなくなった。後は神に祈るばかりだ」と話す。今は近所の人に食べ物を分けてもらって暮らしている。
ケニア赤十字によると、今年3月以降、洪水による死者は全土で94人。約7万人が家を失った。ウィルソンさんは言う。「あんな激しい雨が降ったのは初めてだ。何かがおかしくなっている」【遠藤孝康】