主な事業/国際協力に関する事業(海外難民救援事業【旧「世界子ども救援事業」】)

2010年ケニア・エチオピア ケニアから 乾きと命 (4)

命懸けの出稼ぎ

ジブチに行く途中、列車から転落し、両足と右腕を失ったモハメッド・アハメッド・ハッサン君=エチオピア・アムハラ州センベテで2010年6月19日、小松雄介撮影

ジブチに行く途中、列車から転落し、両足と右腕を失ったモハメッド・アハメッド・ハッサン君
=エチオピア・アムハラ州センベテで 2010年6月19日、小松雄介撮影

 牛やヤギが路上を行き交うエチオピア中部アムハラ州の町センベテ。17歳の少年は小さな部屋で人目を避けるように暮らしていた。モハメッド・アハメッド・ ハッサン君。昨年10月、干ばつに悩む家族を助けようとジブチへ出稼ぎに向かう途中で列車から転落し、両足と右腕を失った。

 8人兄弟の長男で、学校に行かず、両親の農作業を手伝っていた。降雨に頼る天水農業の収穫は不安定で、政府の食糧援助に頼る日々。「僕が家を出て働けば弟妹も空腹に苦しまない」。両親は反対したが、ジブチ行きの列車に乗った。

エチオピア・アムハラ州センベテ

エチオピア・アムハラ州センベテ

 列車は満員で、ドアのない乗降口に立っていた。国境付近で大きく揺れ、バランスを崩した。2カ月後、ジブチの病院で意識を取り戻した。「なぜ生き残ったのか」。運命を恨んだ。

 今年1月、故郷に戻った。母は言葉もなく、涙を流した。今は親族が借りてくれた部屋で、世話をしてくれる弟(16)、妹(10)と一緒に住む。他の兄弟も部屋を訪れ、励ましてくれる。モハメッド君は「弟や妹の顔を見ると、助けてやれなくなったことが悔しい」と唇をかむ。

  この地区の農村からは仕事を求めてジブチや中東に向かう若者が相次ぐ。中東へのルートはジブチやソマリアからの密航。両国と中東の間のアデン湾では密航船の沈没が続く。昨年は376人が死亡・行方不明になった。

 地区の行政担当者は「人口が増える一方で、収穫を左右する降水量は不安定さを増している」と背景を説明する。国際移住機関は対策として、日本政府の資金援助で、若者に農業技術を訓練、家畜を提供している。しかしモハメッド君は「危険だが、出稼ぎに向かう若者を止められない。食糧も仕事もないのだから。僕も他に選択肢はなかった」と話す。

 気候変動に関する政府間パネルは07年の報告書で「気候変動の影響でアフリカの数カ国では20年までに、天水農業による収穫量が最大50%減る可能性がある」と指摘している。【遠藤孝康】

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