主な事業/国際協力に関する事業(海外難民救援事業【旧「世界子ども救援事業」】)

2010年ケニア・エチオピア ケニアから 乾きと命 (11)

出産 HIVの影

出産直後のHIV再検査で陽性が出たことを告げられるユニス・アチェンさん=ケニア・ナイロビのキベラスラムで、小松雄介撮影

出産直後のHIV再検査で陽性が出たことを告げられるユニス・アチェンさん
=ケニア・ナイロビのキベラスラムで、小松雄介撮影

 急速な経済発展を象徴するように、高層ビルが建ち並ぶ東アフリカ最大の都市ナイロビ(ケニア)。その一角に、土壁のバラックが軒を連ねる地区がある。キベラスラム。ケニアの農村部は干ばつなどの異常気象で打撃を受け、生活できなくなった人々が流入して人口が急増している。水道やガスさえ通らず、路上のごみが異臭を放つ貧困の街で、懸命に生きる人々の姿を報告する。【文・遠藤孝康、写真・小松雄介】

父親は逃げ 日収20円

 産院のベッドで体重3200グラムの女児が生まれた。呼吸状態が悪く、スタッフが慌てて処置にあたる。5分後、女児は目と口を大きく開けて「ギャー」と泣き始めた。母親は汚れたTシャツ姿の女性。安心した様子はなく、表情に拭えない影があった。

キべラスラム

キべラスラム

  ユニス・アチェンさん(24)。スラムで5歳の娘と暮らし、小魚を売る。この日は、市場に仕入れに向かう途中で産気づいて倒れ運び込まれた。2カ月前、エイズウイルス(HIV)感染を宣告された。同居していた女児の父親はそれを聞いて姿を消したという。

 ユニスさんは身の上を語り始めた。ケニア西部生まれ。学校に通えず、子守をしていた15歳の時、気の毒に思った親類の女性が、ユニスさんをナイロビに呼び寄せ、家政婦にした。しかし女性の夫から性的虐待を受け、家を飛び出した。流れ着いたのがキベラスラムだった。

 取材中、産院のスタッフがHIVの再検査に訪れた。結果はやはり陽性。感染した原因は分からないという。眠る女児の顔を見つめ「この子は大丈夫だと信じたい」とつぶやく。ユニスさんにはHIV感染よりも今後の生活が心配だ。日収は20ケニアシリング(日本円で約20円)。半分を使って買うトウモロコシ3本が一日の食事という。「明日にも仕事を始めなければ、子どもに食べさせる物がない」と頭を抱えた。

 国連機関「国連合同エイズ計画」によるとケニアの09年のHIV感染者数は150万人で、新規感染者数は11万人に上る。生活が貧しく治療を受けられない患者が多く、死者は年間に約8万人とされる。

  

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