主な事業/国際協力に関する事業(海外難民救援事業【旧「世界子ども救援事業」】)

2010年ケニア・エチオピア ケニアから 乾きと命 (12)

わずか1カ月半の生

アニャンゴちゃんを連れ自宅に戻ったユニスさん。5歳の長女シェリルちゃんが迎えた=ナイロビのキベラスラムで、小松雄介撮影

アニャンゴちゃんを連れ自宅に戻ったユニスさん。5歳の長女シェリルちゃんが迎えた
=ナイロビのキベラスラムで、小松雄介撮影

 3床だけの分娩(ぶんべん)室に次々と妊婦が運ばれ、新生児が生まれる。ケニアの首都ナイロビのキベラスラム内のフレパルス産院は、スラムの人口急増の現場だ。女性スタッフは「今朝は1分ごとに4人が生まれた」と汗を拭った。

 出産を終え、病棟で休む母親たちの表情はさまざまだ。結婚4年目で待望の初子を産んだベルマ・コバさん(23)は「もう(子どもは)あきらめていたから奇跡みたい」と眠る男児を幸せそうに見つめる。双子を産んだアイリーン・ナトゥンゴさん(35)は途方に暮れていた。「4人の息子を残して夫は死に、この子たちの父親とも別れた。私一人で養わなきゃいけないのに双子だなんて……」

 出産の翌日、HIV感染者のユニス・アチェンさん(24)は産院から自宅に戻った。家の外で走り回る娘シェリルちゃん(5)の姿を2日ぶりに見て「昨晩は娘が心配で眠れなかった」とほっとした表情を浮かべた。

 トタンを打ち付けただけの自宅は3畳しかなく隣のごみ捨て場から真っ黒な水が流れ出す。家賃は月1000ケニアシリング(日本円で約1000円)。他の家より高い。家主に足元を見られている可能性もあるという。

 スラム内の診療所ではNGO「国境なき医師団」がHIV感染者にエイズ発症を抑える薬を無料で配る。だがユニスさんは診療所に通っていないため薬を処方されていない。長年キベラスラムに通い貧しい子どもを支援する日本人女性、早川千晶さん(44)は「ユニスさんは小学校さえ卒業しておらず、周囲の助けもないため、どうすれば支援を受けられるのか分かっていない。スラムでは教育をまともに受けていない人が多く貧困の悪循環を生んでいる」と話す。

 出産1カ月半後。ユニスさんの生活支援に乗り出した早川さんから悲報が届いた。「アニャンゴちゃん(ユニスさんの赤ちゃん)が昨夜亡くなりました。下痢が続き、本当にあっけなく死んでしまいました」【遠藤孝康】

 

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