2014年ハイチ・ドミニカ報告 見えない鎖 (5)

開発から取り残された集落で暮らすアリーンちゃん(左)。
弟のデビー君(右)と遊ぶ時間が楽しみだ
=ドミニカ共和国のサバナ・グランデ・デ・ボジャで6月
ドミニカ共和国の首都サントドミンゴから車で約3時間。のどかな農村が広がるサバナ・グランデ・デ・ボジャ。サトウキビ農園だった空き地の一角にある集落で、アリーン・イザベルちゃん(11)は暮らす。「水道もトイレもありません。雨漏りもします。本当にひどい生活です」。強い視線をこちらに向け、はっきりした口調で訴える。
アリーンちゃんは両親と弟2人と、10平方メートル程度の小屋に住む。1970年代に砂糖会社が建てたが、その後は一切整備されていない。トタン屋根はいくつか大きな穴が開き、壁のコンクリートはところどころ崩れ落ちている。トイレはなく、近くの空き地に穴を掘って代用にしている。集落にはこのような小屋が多数建ち並び、その周囲は道路が舗装されていない。
こうした集落は「バテイ」と呼ばれる。1930年代以降、サトウキビ農園で働くハイチ人労働者が住み、現在はその子孫が暮らしている。電気や水道など社会インフラが整備されず、劣悪な環境が社会問題化している。近年は農園の閉鎖が相次ぎ、失業者も多い。
「水は毎朝泉まで約1時間かけてくみに行きます。すごく重いんです」。20キロにもなる水を運ぶ右手には、中指の辺りに大きな硬いまめができている。トイレがないため、衛生状態も悪く、コレラなどの病気もすぐに広まる。アリーンちゃんも数日前、蚊が媒介となる熱病にかかり、治ったばかりだった。「できることなら早くここを出て、別の暮らしがしたいです」
アリーンちゃんの祖父母はハイチ出身で、1960年代にサトウキビ農園の労働者としてバテイに移り住んだ。しかし数年前、農園は閉鎖され、アリーンちゃんの両親は仕事を失った。母ジュリーさん(29)は「出ていきたいけど、お金がありません。仕事を探していますが、なかなか見つかりません」。目に涙をためた。
長年バテイの生活を支援してきたカルメンシータ・ロドリゲスさん(43)は、バテイが開発から取り残されている背景に「アフリカ系黒人が大半を占めるハイチ人への差別がある」と言う。ドミニカ人は白人と黒人の混血が多い。
取材を終えると、アリーンちゃんは小さな窓から入る光を頼りに宿題を始めた。「学校で勉強して、バテイの人たちの暮らしをよくする仕事がしたい」。そう言うと、再び短くなった鉛筆を手に取った。=つづく【文・松井聡、写真・望月亮一】