主な事業/国際協力に関する事業(世界子ども救援事業)

2015年ネパールから 少女たちの祈り (2)

インドに売られ、働かされていたパリヤールさん=ネパール・カトマンズで

インドに売られ、働かされていたパリヤールさん=ネパール・カトマンズで

 お釈迦(しゃか)さまはネパールで生まれたというけれど、私たちを助けるには仏様は一人じゃ足りません――。

 澄んだ声で自分で作詞したという曲を歌うパリヤールさん(18)。カトマンズの学校に通う茶色の瞳をした利発そうな少女は幼いころにインドに売られ、メイドとして働かされた。10歳で逃げ出すまで自分の名前さえ書けず、売られた時が幼すぎたため、帰るべき故郷の村の名前も覚えていない。ネパールではインドや中東などへ人身売買される少女が後を絶たない。

 パリヤールさんが幼いころ、両親は自動車事故で亡くなった。言葉を話し始めたばかりだった弟と2人で、同じ村に住む男に引き取られた。ほどなくして男は「インドに行けば勉強もできるし、新しい服も金ももらえる」と言い出した。弟は男が面倒を見ると約束してくれた。「学校に行ける」という言葉に大喜びし、将来は貯金して弟のもとに帰ろうと決めた。

 連れて行かれたのはインド・ニューデリーにある男の子が2人いる家だった。自分がいくらで売られたのかは知らない。朝4時から寝るまで家事に追われ、学校には通わせてもらえなかった。外出も近所の人と話すことも禁じられ、皿を割れば殴られた。家族の食べ残しを食べ、毛布1枚を敷いて床で寝た。弟のことを思い、村で覚えた歌を泣きながら口ずさんだ。

 数年後のひどく殴られた日の夕方、勇気を振り絞って裸足で逃げた。大きな木の上で寝ずに過ごした翌朝、通りかかった女性に警察に連れて行ってもらった。その後、ネパールで人身売買の撲滅に取り組む現地のNGO(非政府組織)「マイティ・ネパール」に保護され、同じ境遇の子どもたちと寮で暮らしながら、隣接する学校に通っている。

 マイティは2014年、183人の被害者をインドなどから救出、保護した。半数近くが18歳以下で、アヌラダ・コイララ代表(66)は「最近はインドを中継して、中東やアフリカなど世界中が人身売買の目的地になっている。家事労働の約束で連れていかれた先で性的虐待を受ける場合もある。救出された子の心の痛みに触れるたび、防がなければと強く思う」と話す。

 つらい時も寂しい時も歌に支えられてきたというパリヤールさんの夢は、音楽教師になること。「歌は心の薬みたいなもの、つらい時も歌えば元気が出るから」。消息の分からない弟に会いたいという願いを胸に、これからも歌い続ける。【文・武内彩、写真・幾島健太郎】=つづく

 

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