主な事業/国際協力に関する事業(世界子ども救援事業)

2015年ネパールから 少女たちの祈り (3)

インドの売春宿で働かされ、HIVに感染したマガルさん=ネパール・カトマンズで

インドの売春宿で働かされ、HIVに感染したマガルさん=ネパール・カトマンズで

 「食事や洗濯をして、テレビを見て1日を終える。何も起こらない普通の生活が一番いい」。10代でインドの売春宿へ売られ、HIV(エイズウイルス)に感染した女性がつぶやいた。人身売買撲滅に取り組む現地NGO「マイティ・ネパール」が運営するカトマンズ近郊のホスピス。簡素な部屋の壁には色鮮やかなヒンズー教の神々の絵。ここでしか生きられない女性たちは何を祈るのか。

 カトマンズの喧噪(けんそう)を離れ、車で約45分。田畑に囲まれた農村の一角で、感染被害者や精神疾患を抱える10代から50代の女性31人が暮らす。看護師も住み込んでおり、マイティの活動を支援する日本の認定NPO法人「ラリグラス・ジャパン」などの協力で投薬治療も行う。

 外の世界と一線を引くように、ぴたりと閉じた鉄の門に守られたれんが造りの建物。女性らは当番制で料理や掃除をし、海外のNGOから受注したアクセサリーを作ったり、農作業をしたりして過ごす。テレビ室に集まり、映画を見るのが楽しみだ。

 17歳でマイティに保護され、HIV感染が分かったマガルさん(35)は、ネパール西部のインド国境近くの出身。11歳のころ「いい仕事がある」と声をかけてきた男女と食事中に意識を失い、気が付いた時にはインド・ムンバイの売春宿だった。客を取るのを嫌がれば意識がもうろうとする薬を注射され、店が雇ったギャングに性的暴行を加えられた。

 ある日、逃げようと外に飛び出して交通事故に遭遇。病院からの通報で保護されたが、右半身にまひが残る。薬物の影響か、会話や振る舞いは幼児のようで、家族の名前さえはっきり覚えていない。

 12年前に保護されたライさんはネパール系ブータン人。貧しさから学校に通えず、正確な年齢は不明だ。父親の仕事仲間の男にだまされて売られ、ムンバイの売春宿で約3年間、軟禁状態で働かされてHIVに感染。保護された当時の病院の見立ては「せいぜい16歳」だった。

 物静かなライさんだが、家族のように面倒を見てきたシータ(14)というエイズ孤児の少女の話をする時は目を輝かせる。シータも母子感染しているが病状が安定しているため、ホスピスを出てマイティの子ども寮で暮らし、学校に通う。ホスピスでの朝晩の投薬治療なしには生きられないライさんにとって、外の世界に羽ばたいたシータは希望だ。「シータには好きなことをして自由に生きてほしい。それが私の願いです」【文・武内彩、写真・幾島健太郎】=つづく

 

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