2015年ネパールから 少女たちの祈り (5)

産婦人科の診察を待つサルミラ・ラパルさん(右)を気遣う
母のビシュヌ・ビカルさん=ネパール・バクタプルで
まだ表情に幼さの残る18歳の妊婦が、大きなおなかを抱えてバクタプル国立病院の産婦人科で診察台に横たわっていた。国連児童基金(ユニセフ)によると、ネパールでは20~24歳の女性のほぼ半数が18歳前に結婚している。結婚を機に学校を中退し、すぐに出産を経験するケースも少なくない。若年出産は母子ともにリスクが高く、医療施設の不足するネパールでは、安心して出産できる環境をどう確保するかも課題になっている。
診察を待つ患者であふれる病院の玄関を抜け、階段を下りた先にある産婦人科。10代や20代前半の妊婦が硬い木の椅子に腰掛けて順番を待つ。妊娠8カ月のサルミラ・ラパルさん(18)は、1週間ほど前から全身に広がり放置していた赤い発疹を相談するために訪れた。どこか人ごとのような娘のそばで、母のビシュヌ・ビカルさん(41)が「娘には病院で安全に産ませたい」と心配顔で付き添う。
ビシュヌさん自身は、11歳で親が決めた相手と結婚し、15歳で長男を妊娠した。「病院に行ったり、助産師さんを頼んだりするお金があれば家族が食べられる」と自宅で1人で出産した。へその緒は硬貨の上でカミソリの刃で切り、ロウソクの芯をよった糸で縛った。他の3人も自宅で産んだが、きちんとした処置をしなかったせいか、出産後は出血が長引いた。
政府は病院出産を増やすため、妊婦健診を4回受け、病院で出産した場合に1400ルピー(約1700円)を支給するが、ユニセフの統計によると、助産師や医師が立ち会う出産は全体の4割以下にとどまる。同病院の助産師、ビマラ・ナピットさん(36)は、別の山村の病院で、「医療設備の整った都会で治療すれば助かる」と言われた妊婦が夫の家族に治療費を払ってもらえずに見捨てられるのを見たという。「もう働き手にはならないと思われたのでしょう」
サルミラさんは、2年前に近所に住む2歳上の男性と結婚し、学校は8年生でやめた。夫の両親や妹ら7人と同居し、家事はすべてサルミラさんが担う。ビマラさんは「跡継ぎの男の子を求める家族の期待は大きく、1人目が女児だったからと10代ですぐに2人目を産む子もいる」と話す。
発疹が重篤な病気ではないとわかり、サルミラさんは少しだけ表情を緩ませたが、診察中に笑顔を見せることはなかった。妊娠の現実を受け止められず、出産に戸惑っているように見える。もうすぐ母親になる気持ちを尋ねると、「うれしいという気持ちはあるけれど……」と言いよどんだ。【文・武内彩、写真・幾島健太郎】=つづく