主な事業/国際協力に関する事業(世界子ども救援事業)

2016年ヨルダンのシリア難民報告【特集】

未来つかみ取れ

◇テーラーに

職業訓練学校でミシンを扱うアブダラ・カシャールフェさん=マフラク県のザータリ難民キャンプで

職業訓練学校でミシンを扱うアブダラ・カシャールフェさん
=マフラク県のザータリ難民キャンプで

 右足のスイッチでミシンの速度を調節し、生地を左右に回しながら縫い進める手つきはおぼつかない。マフラク県のザータリ難民キャンプで、国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」が運営する職業訓練学校。首もとに採寸用のメジャーを垂らすアブダラ・カシャールフェさん(15)は今年の夏から、仕立てや縫製を学ぶ。テーラーになるのが夢だ。

 ごつごつした大きな手の爪の隙間(すきま)に残る細かな土は農作業によるものだ。5年前にシリアで病死した父に代わり家族5人を支えている。毎朝トラックの荷台に同僚30人と乗り込み農場に向かい、トマトやキャベツを収穫。1日7ヨルダン・ディナール(約1000円)を得る。作業のない日は買い物帰りの人たちの荷物を一輪車で運んで小銭を稼ぐ。

 「文字の読み書きができないんだ」。恥ずかしそうに明かしたアブダラさんは学校に行っていない。「長男だから家族を助けないといけない。他に誰も稼げない」と自らに言い聞かせている。

 幼い頃、マナーフさんという洋服店を経営する父の友人に憧れていた。スカートを作るのが得意で、ミシン台に座る姿がかっこよかった。だが政府軍と反政府軍の戦闘に巻き込まれ、頭を撃たれて亡くなった。「悲しくて悲しくて仕方がなかった」。葬式では号泣しながら見送った。

 訓練学校では、スマートフォンなど精密機械の修理を学ぶコースもあったが迷わずテーラーを選んだ。学校に行かず、毎日農場に通う自分の未来が開けた気がした。

 「すぐにシリアに帰るのは無理だろうね。だからキャンプで店を開きたい。大人用も子ども用も女性用も、何でも作れるテーラーになりたい」

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