主な事業/国際協力に関する事業(世界子ども救援事業)

2017年東南アジアの零細金採掘 輝き探す闇 (2)

水銀を使うASGMで、砕いた金鉱石を機械に流す作業を手伝うロン・ナロッさん=カンボジア・プレアビヒア州ロムトムで

水銀を使うASGMで、砕いた金鉱石を機械に流す作業を手伝う
ロン・ナロッさん=カンボジア・プレアビヒア州ロムトムで

 布を搾ると、水銀があふれ出し、小さな手の指先を伝った。「体に悪いなんて聞いたことがないよ」。カンボジア・プレアビヒア州ロムトムに住むロン・ナロッさん(12)は、放課後に父キエン・サロンさん(41)の仕事を手伝うのが日課だ。

 水銀を塗った台の上に機械で砕いた金鉱石を流し、付着した金を水銀ごと集め、布に入れて水銀だけを搾り取る。さらに布の中の金に薬品をかけて火であぶり、純度を高め近くの雑貨店に売る。作業は素手だが「具合が悪くなったことなんてない」と意に介さない。

 一家は6年前、約150キロ南のコンポンチャム州から引っ越した。当時ゴム農園で働いていたサロンさんの月収は日本円にして約1万円。とても家族を養えなかった。零細小規模金採掘(ASGM)での一獲千金を目指し、金の採れる地として有名だったロムトムを目指した。

 当初は自ら鉱石を採掘したが思うように採れず、現在は金鉱石を砕く機械を別の採掘者に貸し出し、そこで余った鉱石の粒を再度精製して金を抽出している。

 一帯は反政府ゲリラ勢力ポル・ポト派が支配していたが、弱体化した2000年ごろから移住者が増えた。現在の人口は約5500人で、1割がASGMに従事する。本来政府の許可が必要だが、申請費用がかかるため無許可のケースが目立つ。ナロッさん一家も許可は得ていない。

プレアビヒア州ロムトム

 水銀を使う金の精製法は、2年前から急増したベトナム人がこの地に伝えた。「水銀はベトナム人から買ってるよ。使うとたくさん金がとれるんだ」とナロッさん。父サロンさんは「つい最近、水銀が体に悪いことを知った。ただ、使わないと金がうまくとれず、生活が成り立たない。不安はあるけど、仕方がない」と話す。

 無防備なナロッさんらの作業を見たプレアビヒア州環境局の水銀問題担当、チャップ・タラさん(31)は「ASGMの現場で直接水銀を取り込んだり、川や田んぼに流れ出た水銀を魚を介して摂取したりすると、健康被害が出る恐れがある。日本の水俣病のようにならないよう危険性を教えなければ」と危機感を強める。

 一方、タイとの国境沿いにあるバタンバン州のASGM現場では3年前に政府が水銀対策を指導。現在では使用時には手袋やマスクを着用し、水銀の混じった排水は周囲に広がらないようプールで保管する。現場の副リーダー、ライン・スレインパブさん(36)は「数年前、水銀が流れ出し、その水を飲んだ近くの牛が死んでしまった。人に健康被害が出てからでは遅い」と力を込める。【文・畠山哲郎、写真・川平愛】=つづく

 

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