2018イラクIS後 避難民キャンプ報告【特集】
希望の明かり 探して
高遠菜穂子さん=千葉県成田市で、根岸基弘撮影
◇03年からイラク支援、高遠菜穂子さん
2003年からイラクで人道支援を続けるフリーランスのエイドワーカー、高遠菜穂子さんに、恐怖の中で生きる子どもたちの現状と今後の課題を聞いた。【聞き手・千脇康平】
ISからモスルを奪還する軍事作戦が行われていた17年2月ごろ、モスルからクルド自治区を経てヨルダンに逃げていたイラク人の友人を訪ねた。彼女が「モスルか自治区内に戻るかも」と言うと18歳の娘が突然、泣き叫んだ。「私はここを離れない、ISがいないってなぜ言えるの!」。いつも明るい子だったので驚いた。
モスルから自治区側へ逃げようとした時、境界が封鎖され2、3日野宿を強いられた。結局、父はモスルから出られず、友人も乳飲み子を抱えて疲れ果てていた。娘は「私がしっかりしなきゃ」と張り詰めていたと思う。ISが去った今も、トラウマの記憶は生々しく、過激派の再来と爆発事件などが起きることを、誰もが恐れている。
イラクはIS以前から、宗教や宗派間などの対立が長く続き、その中で生まれた憎しみが大人から子どもへ受け継がれてきた。語り継ぐことは大切だが、このままでは「報復の連鎖」は断ち切れない。ISの元子ども兵を巡る問題でも、同じことが言える。少年院で更生させても、社会に受け入れる土壌がなければ彼らを再び過激派の元へ戻すことになりかねない。
その上で、私は今、イラクに平和教育を根付かせる「ピース・セル(平和細胞)・プロジェクト」を進めている。ISの傷に苦しむイラクの人々の中で、「争いはもう嫌」という機運が高まってきていると感じたからだ。これは、私が活動してきた15年間で初めて。本の読み聞かせや演劇ワークショップなどを通じ、自分と異なる背景を持つ人々のことを知り、理解してもらいたい。子どもたちを取り込もうとする過激派への対抗手段でもある。30年かかるかもしれない。でも、イラクが変われるのは、今しかない。(談)