2018年イラクIS後 避難民キャンプ報告【特集】
希望の明かり 探して
夜のハゼルM1キャンプ。日が傾き、暑さが和らぐと人通りが増えてくる。空き地で空気の抜けたサッカーボールを追いかける少年の中には裸足の子もいた。スパイスや乳製品などを売る露店の周りに人だかりが生まれ、お使いを頼まれた女の子が大人たちの隙間(すきま)で窮屈そうにしていた。
午後7時過ぎ、キャンプ内へ配電する大型の発電機にスイッチが入った。産油国でありながら、不安定な情勢や汚職などを理由にインフラ整備が遅れ、電力が不足しているイラクでは、発電機は欠かせない。テント群をぼんやりと照らすオレンジ色の街灯の下、路上で追いかけっこをしたり、乳児を抱いて散歩したりする子どもたちの姿があった。
イラク、シリア両国で暴挙の限りを尽くしたISは、事実上崩壊した。だが、戦乱の傷は深く、支配地域を生き延びた人々が置かれた環境は依然厳しい。
キャンプを運営する地元NGO「バルザーニ財団」の担当者によると、モスル奪還作戦が始まった2カ月後の16年12月から翌年3月ごろにかけ、キャンプは7000世帯を超えていた。イラク政府がISとの戦いに「勝利」を宣言した昨年末以降、帰還の流れが強まり、取材の2カ月ほど前には約1500世帯まで減少した。
しかし今、再び増えてきた。理由は、治安・インフラの回復遅れと仕事がないことだ。「帰還しても生活できないから、1日あたり10~20世帯くらいがキャンプに戻ってきているんです」。同財団担当者の表情は険しい。
記者が取材拠点にしたクルド自治区の主要都市・アルビル市とドホーク市は、共にISの支配が及ばなかった地域で、治安が安定している。大勢の観光客や親子連れでにぎわう市内から一歩外れれば、荒涼とした大地にキャンプが点在していた。国際移住機関(IOM)のホームページによると、イラクの国内避難民は今年9月末現在で約189万人。減少こそしているものの、帰還が円滑に進むような状況ではなく、避難生活のさらなる長期化が懸念されている。
灼熱の避難民キャンプに夜のとばりが下り、テントから外に出た女の子がひとりたたずむ
=イラク・ニナワ県のハゼルM1キャンプで