主な事業/国際協力に関する事業(世界子ども救援事業)

2018年イラクIS後 避難民キャンプ報告【特集】

希望の明かり 探して

明日つなぐ ミッキーの絵

右手を失い、左手も不自由になったムハンマドさん。画家になるのが夢だ=イラク・アルビル県のデバガ1キャンプで

右手を失い、左手も不自由になったムハンマドさん。画家になるのが夢だ
=イラク・アルビル県のデバガ1キャンプで

 少年は、右肘と左手の甲で器用に鉛筆を挟み、画用紙に滑らせた。クルド自治区・アルビル県のデバガ1キャンプに両親らと暮らすムハンマドさん(14)。戦火に襲われ、右肘から先を切断し、左手も手首がねじれて、指は3本しかない。「絵だけに集中すると落ち着く。何も考えなくていいから」。住居の扉には、ムハンマドさんが描いたミッキーマウスの絵。つかの間の楽しみを糧に、明日への希望をつなぐ。

 キルクーク県の街ハウィジャに住んでいた。2014年10月14日夕、雨の中、大きな爆発音が聞こえた。飼っていた羊の様子を見に家の屋根へ上がろうとした時、意識が飛んだ。後で家族から、こう聞かされた。「近くの送電鉄塔がダーイシュ(ISの別称)を狙った爆撃で倒壊し、感電した。失神したんだ」

 両手、足、頭と、体じゅうにひどいやけどを負った。街はISの支配下にあり、診療所に医師はいなかった。夜間の外出が禁じられていたので、夜明けを待ってモスルの病院へ。術後に目を覚ました時、「手がない……」。怖くて泣いた。

 IS支配下の街では食料や水、医療品などあらゆる物資が不足していた。16年9月、着の身着のまま家族と現在のキャンプへ逃げてきた。

 元々、絵を描くことが好きだった。初めて見たアニメがミッキーマウスで、何度も見るうちに落書きを始めた。キャンプでは支援団体にもらった画用紙などを使い、毎日、長い日は2時間もペンを握る。「ミッキー、似顔絵、実際に見た風景や動物とか描いてるんだ」。一方、傷は完治しておらず、今も出血が続く。友達とサッカーをしてもうまく走れず、家に帰って泣いたこともあった。

 キャンプには、広大な敷地に国内避難民約9300人が暮らす。「(故郷の)ライフラインも仕事も満足にないままでは、ここにいるしかない」と父。「お金はないが、励ますことで絵描きになる夢を支えたい。日本で息子に義手をつける手術を受けさせてやることが、私の夢です」

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