主な事業/国際協力に関する事業(世界子ども救援事業)

2018年イラクIS後 暴虐の傷痕 (2)

性奴隷に耐え子守る

ISに拉致され、性被害を受けながらも長男サラル君(左)と長女サラちゃん(右手前)を守り抜いたヤジディー教徒のレイラさん=イラク・ドホーク県で8月23日

ISに拉致され、性被害を受けながらも
長男サラル君(左)と長女サラちゃん(右手前)を守り抜いた
ヤジディー教徒のレイラさん=イラク・ドホーク県で2018年8月23日

 空き地にブロックやビニールシートで作った小屋が点在し、ごみが散らばる。クルド自治区・ドホーク県の街に避難する少数派ヤジディー教徒、レイラ・タロ・ハデルさん(31)は「ここでの生活に未来はありません」とかぶりを振った。長男サラル君(6)と長女サラちゃん(5)を育てる母は、過激派組織「イスラム国」(IS)に拉致され、繰り返し性暴力を受けた。

 レイラさんの故郷は大勢のヤジディー教徒が暮らしていたシリア国境のシンジャル地方。2014年8月3日、ISが村々を急襲。レイラさんは幼子2人を抱えて車で逃げたが、銃を構えたひげ面の男たちに捕まった。約9カ月、IS支配地域の学校や刑務所を連れ回された。はぐれた夫マルワンさん(当時30歳)とはイスラムへの改宗という条件をのんで再会したが、ある日、ISは夫ら男性を集めて連れ去った。

 レイラさんらはISが「首都」と称したシリアのラッカへ運ばれ、奴隷市場に出された。処女は高値がついた。レイラさんは体を洗わず、子どもたちに泥をなすりつけた。「悪臭を放つ汚い親子に見せ、病んだ女を演じた」。2人を手放すわけにはいかなかった。

 ほどなくイラク人の男が3人を手に入れ、3日間、レイラさんを乱暴して他の男へ渡した。3人目のアブドラと名乗る美容整形医は輪をかけて冷酷だった。8カ月ほど共に暮らす間、子ども2人を隔離し、気にくわないとムチで殴った。

 「2人は常におびえていた。この身をささげ、子どもを守り抜くと決めた」。卑劣な欲望を全て受け入れ、男の目を2人からそらさせた。レバノンなど外国から来た戦闘員にも買われ、合計7人の「所有物」に。アブドラら2人の子を身ごもり、堕胎を強いられた。

 17年4月、レイラさんは密航業者と接触。7人目の男や業者に計約3万ドルもの大金を親族が支払い、解放された。

 奴隷生活の間、イスラム学校に通わされたサラル君はコーランを唱え、「ヤジディーは異教徒だから殺す」と口走ったことも。今も落ち着きがなく、怒りを制御できない。「父さんが帰るまで切らない」。サラちゃんは腰まで伸ばす髪に願いを込める。収入はない。豪州へ渡り、難民として新たな生活を始める。それが母の希望だ。

 レイラさんは実名での報道を承諾した。「子どもたちを再び苦難が襲わないように、私が証言します」。記者に真っすぐ向けたまなざしは、最後に弱々しく床に落ちた。「夫の消息を知りたい。私は体だけ生きている。心はもう死にました」【文・千脇康平、写真・木葉健二】=つづく

◇ヤジディー教徒迫害

 ISは、一部のクルド人が信仰する土着のヤジディー教を「邪教」とみなし、14年8月にシンジャル周辺を襲撃。国連の推計などによると、改宗を拒むなどして約5000人が殺害され、数千人に上る女性や子どもが拉致され、奴隷として売買された。ヤジディー教徒を支援する活動家は「性奴隷になることを拒んで自殺する女性もいた」と話す。

 

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