主な事業/国際協力に関する事業(海外難民救援事業【旧「世界子ども救援事業」】)

2024年海外難民救援キャンペーン
       流民に光りを ウガンダから【特集】

体に残る 内戦の爪痕
忘れられたスーダン

 ウクライナや中東での戦争のはざまで、光の当たらない国がある。アフリカ東部の内陸国ウガンダ。アフリカ最大となる約180万人の難民を受け入れながら、国際社会の関心は高いとは言えず、十分な支援が行き届いていない。祖国を追われた難民はど のような苦境に立たされているのか。そもそも、なぜこれほど多くの難民が生まれるのか。厳しい人道危機にひんしている人たちを現地で取材した。【文・郡悠介、写真・滝川大貴】

内戦下のスーダンから逃れ、ウガンダのキリヤンドンゴ難民居住区で暮らすマハシンさん(右)とおいのムハンマドちゃん。自宅を直撃した爆弾の破片で骨折した左腕は固定され、破片が今も残る腹部には痛々しい手術痕が目立つ。ムハンマドちゃんの胸にも金属片が残されているが、治療もままならない=2024年10月19日、滝川大貴撮影

内戦下のスーダンから逃れ、ウガンダのキリヤンドンゴ難民居住区で暮らすマハシンさん(右)とおいのムハンマドちゃん。自宅を直撃した爆弾の破片で骨折した左腕は固定され、破片が今も残る腹部には痛々しい手術痕が目立つ。ムハンマドちゃんの胸にも金属片が残されているが、治療もままならない=2024年10月19日、ウガンダで滝川大貴撮影

 「これが内戦の傷痕です」。女性はそう言うと衣服をまくり上げた。胸下から下腹部にかけて20センチに及ぶ痛々しい切開痕が残る。骨折した左腕は細い金属棒を組み合わせた器具で固定されている。傍らに横たわる幼いおいは泣き叫んだ。「お願い、僕の胸に残る破片を取り除いて」

家族で夕食の準備をするスーダン難民ら。トマトやタマネギを使った煮込み料理の香りが漂う。多くの家に電気はなく、たき火を囲って長い夜を過ごしていた=2024年11月13日、滝川大貴撮影

 家族で夕食の準備をするスーダン難民ら。トマトやタマネギを使った煮込み料理の香りが漂う。多くの家に電気はなく、たき火を囲って長い夜を過ごしていた=2024年11月13日、滝川大貴撮影

 ウガンダの中西部にあるキリヤンドンゴ難民居住区で2024年10月、マハシンさん(36)は、おいのムハンマドちゃん(6)とともに、憂鬱げな表情で身を横たえていた。

 マハシンさんはウガンダの北にあるスーダンから難民として逃れてきた。スーダンでは23年4月から、政府軍と政府系の準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」による内戦が続いており、これまで1200万人超が家を追われたとされる。しかし、ウクライナやパレスチナ自治区ガザ地区での戦争に埋もれ、「忘れられた紛争」と呼ばれる。

 北ダルフール州の州都エルファーシルに住んでいたマハシンさんも故郷を追われた。住まいの一帯では当初激しかった戦闘が一度落ち着いたが、1年たった24年5月に再び激しくなった。

 同月13日夕、自宅の台所で、マハシンさんが作ったパンと羊肉の夕食をムハンマドちゃんが食べようとした際に、突如予期せぬ事態が起きた。「バババババ」。外で銃声が鳴り響いた。直後に自宅が爆撃を受け、飛び散った爆弾の破片が2人の体内に入り込んだ。

 2人はともに病院に救急搬送されて緊急手術を受け、一命を取り留めた。しかし、マハシンさんは腸や手足の関節など全身に、ムハンマドちゃんは心臓に近い胸の部分に、金属片が残されたままだった。病院自体も攻撃を受けかねない緊迫した状況下で、丁寧な手術ができなかったためだ。

 「ウガンダへ行けばいい」。ムハンマドちゃんの父で、マハシンさんの弟のアボアルガシムさん(31)は2人の身を案じる中で、知り合いからアドバイスを受けた。聞くとウガンダは治安が良く、医療や教育の仕組みも素晴らしいという。

 マハシンさん、アボアルガシムさんは母親も連れて一家8人でスーダンを脱出し、約1カ月後の同年6月ごろにウガンダにたどり着いた。

 しかし、現実は理想とはかけ離れていた。身を寄せた先のキリヤンドンゴ難民居住区では、医療施設に大勢の難民が連日押し寄せる。やっと診察してくれた医師には「体内に残る金属片の位置を確かめられる高度な医療設備がない」とさじを投げられた。

 寒くなる朝晩は体内の金属片も冷えて、激しい痛みに悩まされている。ムハンマドちゃんは毎日のように強い頭痛も訴えるが、どうすることもできない。アボアルガシムさんは「息子の金属片は心臓に近く、命に関わらないか心配している」とおえつを漏らした。

 教育上の懸念も大きい。ムハンマドちゃんは母国では今年、小学校に通い始める年齢に当たる。ただ、難民居住区内の学校に通っているスーダン難民の子どもは言葉の壁もあり、「何を学んでいるのかすら分からない」と訴えているという。生活環境も劣悪だ。住まいの簡易テントは雨漏りして、隙間(すきま)からは全長3メートルのヘビも入り込む。水道もなく、遠くから水をくんでこないといけない。

 マハシンさんは「働くことはおろか、食事すらままならない。ウガンダから離れたいが、別の国に移るためのお金もない」と嘆く。

 そんな大人たちの横で、ムハンマドちゃんは将来の夢をにっこり笑って語った。「僕はエンジニアになりたい。だって、みんなのためにもっと立派なおうちを建てられるから」

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