2019年ナイジェリア報告 終わらぬ恐怖 (1)その1
静かなたたずまいに、深い怒りがにじむ。あの記憶を伝えたいのに、うまく語れない。少女は今「終わらぬ恐怖」と闘っている――。
イスラム過激派の武装勢力「ボコ・ハラム」による襲撃や拉致におびえるナイジェリアで、未成年者を含む約7000人もの女性が拘束されたままになっている。「性奴隷」として扱われるケースも多いとされる。
ボコ・ハラム誕生の地とされる同国北東部ボルノ州の州都マイドゥグリは、ボコ・ハラムとナイジェリア政府軍が激しい戦闘を繰り広げた街だ。現在、人々の生活は平穏を取り戻しつつあるように見えるが、中心部から離れると建物は破壊されたままで、人々は今も襲撃を恐れて暮らす。
9月下旬の昼下がり、多くの地元民でにぎわう人気レストラン。現地の取材協力者に付き添われ、清楚(せいそ)な白い民族衣装に身を包んだ少女が現れた。ザラウ・カラウさん(18)。騒がしいフロアと隔離された一室に入ると、私たちを静かに見つめ、はっきりとした口調で語り始めた。「人生をめちゃくちゃにされた。最悪の日々だった」
2014年に住んでいた町で、両親が殺害された。当時13歳だったカラウさんはそのまま連れ去られ、戦闘員たちの性奴隷となり、その後、結婚を無理強いされた。「毎日2、3人の男たちに……」。許し難い暴力を受けた日々を語ろうとしたところで、言葉が出なくなった。両手で顔を覆い、肩を震わせた。
カラウさんは勇気を出して実名や写真の掲載を了承してくれた。通訳を通じて何度も確認したが、決意が揺らぐことはなかった。しかし、恐怖の記憶から逃れられず、心の傷も癒えていない。「あの時の生活を思い出すと、悔しくてたまらない。うまく説明できなくて、ごめんなさい」。言葉を絞り出す姿が、あまりに痛々しかった。
毎日新聞と毎日新聞社会事業団による「世界子ども救援キャンペーン」は今年で41年目。今回は西アフリカの大国・ナイジェリアを訪れ、ボコ・ハラムの支配下から逃れた少女や元少年兵たちの現状や、貧困にあえぐ子どもたちの様子を報告する。<文・岡村崇、写真・山崎一輝>