主な事業/国際協力に関する事業(世界子ども救援事業)

2019年ナイジェリア報告 終わらぬ恐怖 (1)その2

結婚は性奴隷
  
16歳から耐え、幼子連れ逃走

ボコ・ハラムの戦闘員と強制結婚させられた女性(22)。「夫は憎いが子供に罪はない。健康に育って、世間に『ボコ・ハラムの子』だと知られないように生きてほしい」と話した=ナイジェリア・ボルノ州マイドゥグリで2019年9月22日

ボコ・ハラムの戦闘員と強制結婚させられた女性(22)。
「夫は憎いが子供に罪はない。健康に育って、
世間に『ボコ・ハラムの子』だと知られないように生きてほしい」と
話した=ナイジェリア・ボルノ州マイドゥグリで2019年9月22日

 「思い出すだけで怒りがこみ上げてくる」。ナイジェリアではイスラム過激派の武装勢力「ボコ・ハラム」の支配 下で、多くの女性たちが「結婚」の名の下、「性奴隷」として扱われてきた。戦闘員との間に生まれた子を抱きかかえ、 決死の逃走を果たした女性たちの言葉には、「終わらぬ恐怖」と闘う悲壮な決意がにじむ。

 ボルノ州南部の町で平穏に暮らしていたザラウ・カラウさん(18)は2014年8月、ボコ・ハラムの襲撃を受 け、父母を殺害された。自身は姉たちと共に捕らえられ、廃虚のような街に運ばれた。

 住宅のような建物内には、同様に連れて来られた数十人の女性たちがいた。そこで毎日、ボコ・ハラムの戦闘員た ちから性的暴行を受けた。「心身ともにぼろぼろになった……」。間もなく、戦闘員と強制結婚させられた。夫が戦死す ると別の戦闘員の妻となり、延べ3回、結婚を繰り返した。

 「暴力をふるう夫から逃れたい」。最初に拉致されてから約4年後の2018年、チャンスが訪れた。ある夜、夫や戦 闘員たちが寝付いたのを見計らい、戦闘員との間に生まれた男児(当時1歳)を背負って、逃げ出した。暗闇の中、バイ ク音が近づくと、とっさに身を隠した。緊張で心臓がバクバクと音を立てた。「いつ追っ手につかまるか、恐ろしくてた まらなかった」。ほとんど寝ずに、飲まず食わずで2日間逃げ続け、ボルノ州南部の村に逃げ込み、ナイジェリア軍に助 けを求めた。

 カラウさんと息子は、現在、国内避難民(IDP)キャンプで国連などの支援を受けながら生活している。「子ど もの成長を見守りながら、学校で勉強したい」とささやかな希望を抱いている。

◇ ◇ ◇

 「父親のような悪い人間にはならないでほしい」。10代でボコ・ハラムの戦闘員と強制結婚させられた女性(2 2)は、スヤスヤと眠る1歳の息子を優しく見つめ、つぶやいた。

 2013年、ナイジェリア北東部ボルノ州の州都マイドゥグリの道端で、ボコ・ハラム戦闘員たちに連れ去られた。多 くの女性と大部屋に入れられた。性暴力は受けなかったが、強制的に戦闘員の妻となった。当時16歳。結婚とはいえ実 態は「性奴隷」で「食事や水も満足に与えられなかった」。

 夫から逃げ出したのは約1年前。生後2週間(当時)の息子を抱え、危険だと分かっていたが「一日でも早くあの 生活から逃げ出したかった」。他の女性1人も一緒に逃げた。土地勘がないためどこに逃げればいいか分からず、人の気 配におびえながら森をさまよった。3日後にナイジェリア軍の施設に逃げ込んだ時は、ホッとして全身の力が抜けた。

 現在、マイドゥグリの親類宅に身を寄せる。差別をおそれ、息子の出自が知られないように心を砕く。「奪われた 教育の機会を取り戻したい」と願い、医者になるのが夢だが、学校に通うめどは立っていない。

 記憶への恐怖と将来の不安は消えない。それでも2人は「私たちの話を、よく聞いてほしい」と勇気を振り絞る。 尊厳を取り戻そうとする叫びが、胸に刺さった。<文・岡村崇、写真・山崎一輝>

 

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