ぼうさい甲子園2014 表彰式・発表会(1)
いのち守る絆、私たちが創る
あすへの備え、学校・地域から発信
優れた防災教育の取り組みを顕彰する「ぼうさい甲子園」(1・17防災未来賞)=毎日新聞社、兵庫県、ひょうご 震災記念21世紀研究機構主催、UR都市機構協賛=の表彰式・発表会が11日、神戸市中央区の兵庫県公館で開かれた 。10回目の今回は、小学生、中学生、高校生、大学生の4部門に計131校・団体が応募し、29校・団体が入賞した 。活動を報告したグランプリ、ぼうさい大賞、優秀賞の7校の発表などを紹介する。
記事取材は椋田佳代、松井聡、山本健太、伊地知克介(大阪社会部)、釣田祐喜(阪神支局)、井上卓也(神戸支局) 、写真は小松雄介、梅田麻衣子(大阪写真部)、紙面編集は井上元宏(編集制作センター)が担当しました。
グランプリ
和歌山県田辺市立新庄中
◇土のうづくりで競争
グランプリに輝いた和歌山県田辺市立新庄中は、3年生の大西優有(ゆう)さん(15)、小倉陽(ひなた)さん( 15)、福本凌大さん(14)が、2001年から毎年3年生が週1回取り組む「新庄地震学」を発表した。
新庄中がある地区は、安政南海地震(1854年)や昭和南海地震(1946年)など100~150年の周期で大地 震が起き、津波の被害を受けてきた。こうした歴史から校舎は高台に移転し、将来発生が予想される南海トラフ巨大地震 に備えて地震学を始めた。
地震学は教科と防災を結びつけた内容になっているのが特徴。今年度は「つながる」というテーマで8班に分かれ、美 術班が地震学の取り組みをカレンダーにまとめて地域の人に配ったり、国語班が防災標語を募集してかるたを作った。福本さんは「大きな賞をもらい、全国のたくさんの人とつながることができてうれしい。大人になっても学んだことを 忘れず、防災に関わっていきたい」と力を込めた。
ぼうさい大賞
愛知県半田市立亀崎小
◇土のうづくりで競争
愛知県半田市立亀崎小は校内の有志で作り、積極的に研修・見学をしている「亀っ子防災隊」の6年、藤村志保さ ん(12)と4年生、市川愛悠さん(10)が活動報告した。トレードマークの赤いユニホーム姿で元気に発表し、大きな拍手を受けていた。
「自分の命は自分で守る。助かった命を生かす。そのためにやれることはなんでもやってみる」という姿勢で活動を展開していることを紹介。
バケツリレーや土のうづくりのスピードを競う「防災運動会」や防災センターなどを積極的に見学して、その体験を同級生たちに伝えるため校内での報告会を開いていること、学校で応急手当てや蘇生法などについて 学ぶ防災学習室があることなどを説明した。
「防災の勉強をしたから、(災害時に)落ち着いて避難できる」と話し、「これからも命を守り続けたい」とまとめた 。終了後、「いい経験になりました。これからの活動に生かせそうです」と話していた。
ぼうさい大賞
岩手県立宮古工業高
◇模型で「津波」実演
岩手県立宮古工業高校は、機械科3年の柴田一樹さん(18)と武藤浩太さん(17)が、沿岸部の模型を使って津 波の恐ろしさを伝えた出前授業の様子を発表した。
宮古工高機械科は2005年から津波模型の製作を始め、これまでに宮古市や同県山田町沿岸部などの模型11基を作 った。活動を始めて10年目を迎えた昨年、実演114回を達成。今年度は関西や四国地方での実演にも取り組んだ。発表会では、宮古市で実施した実演会の様子を写真で紹介した。
武藤さんは、神戸市や徳島県での津波実演会について 触れ、「県外のレベルの高い話し合いに感心した」と振り返った。
また、人と防災未来センター(神戸市中央区)での実演後のアンケート結果では、半数が災害への準備ができていない と回答した。柴田さんは「次年も災害が予想される地域の模型製作を検討してほしい。命を守るために伝統の実演会を続 けて」と後輩に託した。
優秀賞
愛知県高浜市立翼小学校
◇校内の「危険」探す
愛知県高浜市立翼小は茂木穂佳さん(11)、鈴木和音さん(12)、齋藤晶さん(12)の3人の6年生女子が 発表に臨んだ。3人は計画委員や学級委員で、普段から防災学習をリードしている。工夫した避難所体感訓練などで「自分で調べ、考えて、行動する」という自主性を重視した活動について報告した。
昨年7月末、学校に宿泊しての避難所体感訓練では、「少しでも自分たちにできることを」と、けがをしている人を助 けるための救急手当ての方法を学んだり、校内を見て回り危険箇所を見つけたりした。
災害への備えを充実させるための 祭りで出店し、募金を集めるなどの活動も進めた。学校で備蓄するものも、何を買うと役立つかを自分たちで考え、話し 合って決めた。
「自分で災害について考え、行動できるようになった」と報告した茂木さんは「(発表は)練習通りにできて良かった 。表彰を受けてすごくうれしかったです」と話した。
優秀賞
徳島市津田中中学校
◇「津波後」の街 構想
徳島市津田中は3年の小浜渚さん(15)と増原菜美さん(15)が南海トラフ巨大地震で津波被害を受けた後の 街づくりを事前に考える「復興街づくり」の取り組みを発表した。
東日本大震災で避難後、被災者がふるさとに戻らない現状がある。「将来に希望を持てるようにするには、あらかじめ 街づくりを協議しておくことが大切」との考えから取り組んできた。夏休み中に地域の600軒を回り、避難場所の津田 山の活用法などに関する住民意識を調査。
発表では、その調査結果もふまえて考えた街づくり案の一部や、それを基に作 ったジオラマを紹介した。
津波に強い街にするため、標高約80メートルの津田山を削って平地をつくり、病院や食糧貯蔵庫、避難ビルを設置す る独創的な案が登場した。小浜さんは「これからも事前の復興街づくりを続け、地域の防災活動のリーダーになれるよう に学習したい」と力強く語り、発表を締めくくった。
優秀賞
高知県立須崎工業高等学校
◇住民と避難所訓練
高知県立須崎工業高はともに3年の前田愛さん(18)と高橋和也さん(18)が、地域住民や行政と連携して行 ってきた取り組みについて発表した。
須崎工高がある須崎市は太平洋に面し、南海トラフ地震が発生すると、最大津波25メートルが予想されている。約3 0メートルの高台にある須崎工高は緊急避難場所に指定されていることから、地域や行政と連携して防災活動に取り組ん できた。
発表では、幼稚園で防災をテーマにした紙芝居を自分たちで作り、読み聞かせしてきたことや、地域住民と一緒に救護 所設営や食料配給などの訓練をしてきたことを報告した。
また、工業高校ならではのものづくりで防災活動に貢献する取り組みについても触れ、これまでに避難場所まで誘導す る「ソーラー式照明装置」などを製作してきたことなどを発表した。高橋さんは「活動を通して人を思いやる心を学べた 。地域や行政と連携や交流を今後も広げていきたい」と話した。
優秀賞
静岡大学教育学部藤井基貴研究室
◇災害の対策、英語で
優秀賞の静岡大教育学部藤井基貴研究室は堀江愛美さん、仁科羽純さん、松井未夜子さんの3年生3人が参加した 。
藤井基貴准教授を中心に、これまでの取り組みでは、「防災道徳」として道徳の授業の中で、小学生を対象に「災害時 のジレンマ」を考える授業をつくってきた(12年度に教科アイデア賞を受賞)が、今年は留学生向けの授業を考えた。 災害時に弱者となる人のことを考える、という姿勢が貫かれている。
留学生にはまずアンケートを取り、地震や防災を学ぶ機会がなく、6割が不安を持っている、という結果を報告。英語 とやさしい日本語を使った防災授業(カリキュラム)を作った経緯と結果について話した。
「教材は災害時のさまざまな局面を想定し、リスクやジレンマを考えて作った」と報告した。教員を目指す学生による 防災教育の取り組みはこれまでの受賞校の中でも珍しく、会場では注目が集まっていた。