ぼうさい甲子園2018 受賞団体の取り組み


受賞団体の取り組み——地域面から

生き抜く力、意識を高め 山田養護学校、教科アイデア賞 グランプリに興津中、住民守る取り組み /高知

 優れた防災教育や活動を顕彰する今年度の「ぼうさい甲子園」(1・17防災未来賞)=毎日新聞社など主催=で、県内からは四万十町立興津(おきつ)中学校がグランプリを受賞したほか、初応募の県立山田養護学校(香美市)が「教科アイデア賞」に選ばれた。【久保聡】

 興津中は、南海トラフ巨大地震と津波から地区の住民を守るためにはどうすればよいかを考え、継続的に防災に取り組む。2016年度にぼうさい甲子園の「津波ぼうさい賞」、17年度に「奨励賞」を受賞し、今回は初めて最高賞に輝いた。

 山田養護学校は、県東部の唯一の特別支援学校として、知的障害のある児童・生徒190人の一貫教育を行う。児童・生徒の生き抜く力を育てるためには防災教育の継続が必要不可欠と考え、活動に取り組んでいる。

 今年度は、校外でのスクールバスの避難訓練も実施した。登下校中の地震を想定し、発生場所や避難経路を変更して繰り返し実施。児童・生徒が主体的に避難行動を身につけられるよう工夫している。

 さらに、福祉避難所の開設運営訓練や津波避難訓練などを、行政や近隣学校、地域住民と一緒に実施。図工での防災作品や学習発表会での避難訓練の劇、運動会でのバケツリレーなど、教育課程のあらゆる部分と横断的にリンクさせている。

 三好喜久(きく)教諭(55)は「活動は広がりつつあり、今後も取り組みを継続していく。児童・生徒も自分の命は自分で守るという意識が身につき、生き抜く力につながっている」と話す。

津乃峰小が大賞受賞 地域巻き込み意識向上へ 優秀賞・津田中 奨励賞・那賀高 /徳島

 優れた防災教育を顕彰する今年度の「ぼうさい甲子園」(1・17防災未来賞)=毎日新聞社など主催=で、県内からは阿南市立津乃峰小学校が「ぼうさい大賞」、徳島市津田中学校・防災学習倶楽部が「優秀賞」、県立那賀高校・防災クラブ(那賀町)が「奨励賞」に輝いた。それぞれ南海トラフ巨大地震の津波への備えや、災害時の対応などの取り組みが評価された。【岡崎英遠】

 ◇優秀賞・津田中 安全な街づくりを策定

 津乃峰小は2016年度の「ぼうさい大賞」、17年度の「グランプリ」に続く受賞。津波から命を守るために実施している抜き打ちの避難訓練、全教科に防災の視点を取り入れた「クロスカリキュラム」など、日ごろから防災教育に取り組む。

 さらに、今年度から家庭防災新聞「ブリッジ」を毎月発行し、地域全体の防災意識向上を図るなど活動を広げている。選考委員会では満票で小学生部門の大賞に決まった。

 防災活動を続けて14年目となる津田中は今年度、南海トラフ巨大地震発生後の復興街づくり案の策定に取り組んだ。校区内の約860世帯にアンケート調査を実施し、住民のニーズや津波の浸水想定、液状化被害などを考慮して街づくりを考え、防災意識の向上を図った。佐藤康徳教諭は「今では生徒たちが地域の防災力。リーダーとして活躍してほしい」と語る。

 学校近くを流れる那賀川の氾濫リスクを抱える那賀高は、12年度に防災クラブを設置した。今年度は、3年前から続ける災害用炊飯袋(耐熱袋)を使った「防災食」のレシピ集を作成した。西沢幸恵養護教諭は「防災食作りでも一度体験しておくと災害時に役立つ。継続が何より大切」と話す。

要援助者主題に学ぶ だいじょうぶ賞の尼崎小田高 /兵庫

 優れた防災教育を顕彰する今年度の「ぼうさい甲子園」(1・17防災未来賞)=毎日新聞社など主催=で、県内からは県立山崎高校(宍粟市)がぼうさい大賞、県立尼崎小田高校・普通科看護医療・健康類型(尼崎市)がだいじょうぶ賞、神戸市立真陽小学校・見て聞いて委員会と学生支援団体tunagu(赤穂市)がフロンティア賞に選ばれた。山崎高は昨年度に続く大賞。生徒主導の防災イベントの企画・運営など継続した取り組みが評価された。【岡崎英遠】

 山崎高は「山崎断層」の上にあり、大地震がいつ起きてもおかしくない状態。7年前から生活創造科2年の生徒を中心に防災活動に取り組む。毎年12月、防災体験活動を生徒が企画・運営し、全校生徒約700人が応急手当てや搬送を学んだり、炊き出し訓練をしたりしている。

 今年1月、災害時の動き方や防災知識をまとめた防災ガイドブックを作成し、校区内の230世帯に配布した。さらに地元企業と連携し、特産品の「揖保乃糸」を使った非常食の研究など地域との交流にも力を入れる。

 防災体験活動は回数を重ねるごとに充実し、今年度は森林環境科学科の生徒が仮設住宅の設置体験を行う予定だ。指導に当たる多々良恵教諭は「普段から知識を学び、実際に体験しておくことで役に立つ。これからも人を支えられる人間を育てたい」と語る。

 県立尼崎小田高は、高齢者介護施設での避難訓練や聴覚障害を持つ防災士とのワークショップなど、災害時要援助者をテーマにした防災学習を実施。学校が地域防災の核となり、災害に強いまちづくりを目指している。

 真陽小は阪神大震災で甚大な被害があった地域にあり、災害の記憶の継承を課題に掲げる。関西大社会安全学部の近藤誠司研究室と連携して「校内防災放送」を活用した防災活動に取り組んだ。

 学生支援団体tunaguは関西福祉大の学生が中心となり、昨年4月に活動を始めた。赤穂市の古民家を活用して不登校の子どもの居場所づくりをし、防災講座を開くなど地域の防災力向上に努めている。

関大・近藤研究室が大学生部門で大賞 金岡南中と関西創価高、フロンティア賞 /大阪

 優れた防災教育を顕彰する今年度の「ぼうさい甲子園」(1・17防災未来賞)=毎日新聞社など主催=で、府内からは関西大社会安全学部・近藤誠司研究室(高槻市)が大学生部門のぼうさい大賞、いずれも初応募の堺市立金岡南中学校理科部「防災研究班」と関西創価高校(交野市)が特別賞のフロンティア賞に選ばれた。【根本毅】

 関大の近藤研究室は学生32人が所属。ケーブルテレビやコミュニティーFM、校内放送、写真集、インターネットなどあらゆるメディアを駆使し、地域防災・防災学習の活動を支援する。同時に進める18のプロジェクトは、一過性にしないため全てが「継続中」だ。

 活動エリアは、東日本大震災や西日本豪雨の被災地など全国各地に及ぶ。高齢化率が8割に達する山間集落にも通い、土砂災害警戒区域の地域防災活動を支援する。今年度は、防災版学校だより「ぼうさいタイムズ」の多言語化に挑戦するなど、さらに活動の幅を広げている。

 フロンティア賞は、過去に受賞がなかった地域での先導的取り組みや初応募の優れた取り組みに贈られる。
 金岡南中の防災研究班は、理科部の1年生3人で今年6月に結成された。大阪北部地震の被災地・高槻市で戸別訪問して困りごとを尋ねるボランティアをするなど、理科の授業で学んだことを基に防災について考え、調べ、行動している。

 同中の校区でも、台風21号被害による危険箇所がないか確かめる活動を実施。地元商店街のイベントで廃油を使ったエコキャンドルのワークショップを行い、環境問題や防災について考える機会を地元の人たちに提供した。

 関西創価高は、2017年11月の「『世界津波の日』高校生島サミットin沖縄」に参加した女子生徒3人が、学校内外で自主的に防災への取り組みを続ける。

 3人は、教員や全校生徒を対象に「家族で避難所を決めているか」など防災意識についてのアンケートを実施。トイレや食堂に「簡易トイレの作り方」といった4コマ漫画を掲示するなど啓発に工夫を凝らす。

県内4団体受賞 /愛知

 優れた防災教育を顕彰する今年度の「ぼうさい甲子園」(1・17防災未来賞)=毎日新聞社など主催=で、県内からは西尾市立一色中部小学校が優秀賞、半田市立亀崎小学校が奨励賞、西尾市立白浜小学校が「継続こそ力賞」、愛知工科大・板宮研究室が奨励賞に選ばれた。【根本毅】

 ◆優秀賞

 ◇6年間系統的に学習 西尾・一色中部小

 一色中部小のある一色町地区は三河湾に面し、南海トラフ巨大地震で最大7メートルの津波が想定される。埋め立て地が多く、大規模な液状化現象の恐れもある。このため、さまざまな想定の避難訓練を年8回実施し、校長と教頭以外には知らせない訓練も行っている。

 防災学習は、2年生で通学路の危険を見つける街探検を行い、5年生で防災マップ作り、6年生で地区の避難所設営訓練に参加するなど、6年間の系統的なカリキュラムを工夫している。今年、6年生が備蓄棚の必要性に気付き、地域の寄付で設置を実現した。

 ◆奨励賞

 ◇教育に工夫「札」作製 半田・亀崎小

 亀崎小は、東日本大震災を「身近な備え」への教訓と捉え、防災教育に取り組む。被災者の体験を聞く会や、避難所宿泊体験、防災学習室の整備など工夫を凝らす。「要救助」や「避難済み」と記した避難札を亀崎地区約4000戸に配るため、作製を進めている。

 また、4~6年生の有志児童と教員による「亀っ子防災隊」を組織し、各種施設の見学や地区の防災訓練での寸劇披露などを行う。

 ◆継続こそ力賞

 ◇年11回の避難訓練 西尾・白浜小

 白浜小は、校舎3階から三河湾を望むことができ、南海トラフ巨大地震で4メートルの津波が約40分後に到達すると想定されている。液状化現象の恐れもある。東日本大震災の直後から防災教育に力を入れ、ぼうさい甲子園は今回が4回目の受賞。

 地震・津波の避難訓練は年11回実施。独自に備える防災倉庫は、2015年度の卒業生が防災学習の結果、必要な施設と考え、地域の協力で卒業記念品として寄贈した。

 ◆奨励賞

 ◇VRシステム開発 愛工大・板宮研究室

 愛知工科大・板宮研究室は、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)の技術を活用し、スマートフォンと紙製ゴーグルで災害が疑似体験できるシステムを開発した。
 小中学・高校などで疑似体験を実施し、体験者は1万4000人を超えた。災害を自分のこととして強くイメージできるため、教育効果が高いという。

大槌高に優秀賞 災害伝承の輪、広がり /岩手

 優れた防災教育を顕彰する今年度の「ぼうさい甲子園」(1・17防災未来賞)=毎日新聞社など主催=で、高校生部門優秀賞に選ばれた県立大槌高校(瀬戸和彦校長)。来年学校創立100周年を迎えるのにふさわしい栄えある受賞で復興研究会の生徒たちは、今後も東日本大震災からの復興の記録や防災まちづくりの活動を通じて、町内外の人々との交流や、災害伝承に取り組む決意を新たにする。【中尾卓英】

 ◇復興の記録「定点観測」が評価

 同町は津波と火災で1286人が犠牲になり、家屋約4000棟が全半壊した。同高でも、卒業式を済ませた3年生ら生徒6人が犠牲になり3分の2の生徒が被災した。同町吉里吉里出身で生徒に寄り添ってきた研究会顧問の松橋郁子教諭は「どうやって生きていくのか、希望を語れるのかと途方に暮れたところからの再スタートだった」と振り返る。
 発生当日から避難所となった同高で食事づくりや救援物資配りなど運営を手伝った生徒たちは2013年、「地域の復興に貢献したい」と研究会を発足させた。キッズステーション班(町内の児童施設でのボランティア活動)や防災・町づくり班(復興まちづくりへの提言と地域と協働の防災訓練)、他校交流班(全国から同高を訪れる高校生との交流)など、自主的で持続的な活動は、地域性と独創性に富んでいる。

 特に評価された「定点観測」班は、町内180カ所で年3回、生徒が同じ場所・角度からカメラ撮影してきた3000点を超える復興の記録だ。今春、町と連携協定を結び、多くの人が訪れる「町文化交流センター・おしゃっち」に展示スペースを設け、生徒たちの成長の場として、災害伝承の輪が広がる。

 生徒会執行部メンバーでもある菅野雅也さん、佐々木加奈さん、上山華歩さん(いずれも2年)は「大槌人として古里のことをもっと知っていかなきゃない、高校生が発信することで町が変わっていくことが活動の原動力」「夏、冬休みに子どもたちと遊ぶキッズステーションなど、大切なものをなくした人々と支え合って生きている実感がある」「目の前で起きた悲しい出来事から、避難所運営、体育大会復活を通じて地域の絆が深まった」と目を輝かせた。

 来年1月のぼうさい甲子園発表会では、阪神大震災の被災地・神戸で取り組みを発表する。3人は「南海トラフ巨大地震などに備える活動をする、全国の子どもたちからたくさん学びたい」と語る。

 生徒たちのトラウマやフラッシュバックにも配慮しながら、週末もその活動を見守ってきた菊池治副校長は「先輩から後輩へと『古里の復興に貢献したい』との思いが引き継がれていく。今後は定点観測などを授業のカリキュラムに組み込んでいきたい」と話した。

今年度、静岡大・藤井研究室が優秀賞 特別賞に吉田特別支援学校 /静岡

 優れた防災教育を顕彰する今年度の「ぼうさい甲子園」(1・17防災未来賞)=毎日新聞社など主催=で、県内からは静岡大教育学部・藤井基貴研究室が優秀賞に、初応募の県立吉田特別支援学校(吉田町)が特別賞の津波ぼうさい賞に選ばれた。

 静岡大の藤井研究室はぼうさい甲子園入賞の常連だ。2015年度から3年連続でぼうさい大賞に輝き、今回で6回目の入賞となる。

 教職を目指す学生が主体となり、「考える防災」をテーマに教材や授業の開発、実践、普及を進める。研究室が開発した防災教材は、これまで全国100以上の小中学校が活用した。連携する防災教育に関する組織・機関は学校や行政、企業など140を超えた。

 外国人や障害者、お年寄り、子どもなど災害弱者向けの防災教材の開発にも力を入れる。今年度は、特別支援学校向けに、地震時にどう行動したらいいかを分かりやすく伝える紙芝居「ゆれがきたぞ」を開発した。

 さらに、テレビ局アナウンス部との「防災紙芝居読み聞かせ活動」に今年度から取り組むなど活動の幅を広げる。今後も、さまざまな防災活動を展開する方針だ。

 吉田特別支援学校は、15年4月に開校したばかり。地域とのつながりがあれば災害時に円滑な連携ができ、地域の人材を活用すれば効果的な防災学習ができると考え、避難訓練などに取り組んでいる。

 訓練は、特別支援学校に通う児童・生徒の実態を地域の多くの人に知ってもらうよう計画した。スクールバス避難訓練は、実際の運行経路周辺の小中学校で行い、その学校の教職員に見学してもらっている。

 また、同校は災害時に避難所になるため、地域の避難訓練に合わせて学校の避難訓練も実施。参加者から「思っていた以上に生徒たちは何でもできる。災害時に戦力になると分かった」とほめられたという。【根本毅】

日高特別支援学校、奨励賞に輝く /埼玉

 優れた防災教育を顕彰する今年度の「ぼうさい甲子園」(1・17防災未来賞)=毎日新聞社など主催=で、県内からは日高市の県立日高特別支援学校が小学生部門の奨励賞に輝いた。2015年度から4年連続の入賞となる。

 同校は東日本大震災後、防災教育に取り組んでいる。4年前から「かわせみ防災タイム」と名付けた防災学習を行い、生活年齢や発達段階に応じた指導をしている。

 昨年度は、災害時の危険な場所に「ぐらぐら妖怪」のシールを張り、全校生徒で探した。今年度は当初、ヒーローを設定し、妖怪から身を守るため道具や環境整備、仲間との協力が必要になることを学ぶ計画だった。しかし、児童はヒーローより安全の象徴のゾウを選び、「みんなの命を守るゾウ」を探す取り組みを行った。

 このほか、災害伝言サービスの体験や、避難所での生活を想定した学習などを行う。同校は「防災学習は知識を得るだけでなく、得意不得意を含め自分自身を知り、コミュニケーション能力を高めることなどにつながっている」と説明する。

 担当の斎藤朝子教諭は「車椅子の子どもの防災教育など、地道な取り組みが4年連続で評価され、うれしい」と話している。【根本毅】

燕・小池中に奨励賞 地域ぐるみの活動評価 /新潟

 優れた防災教育や活動を顕彰する今年度の「ぼうさい甲子園」(1・17防災未来賞)=毎日新聞社など主催=で、中学生部門の奨励賞に初応募の燕市立小池中学校(生徒数199人)が選ばれた。校区内の自治会組織や2小学校とともに2年前から続ける合同防災訓練などが評価された。【松浦吉剛】

 小池中は2015年5月、生徒会が中心となり、地域貢献活動「糸半(いとはん)プロジェクト」を始めた。糸半は絆の字を分解した造語。小池中の生徒が縦糸、地域の人たちが横糸となり、布を織り込むような活動で絆を深めたいとの願いが込められている。

 地震を想定した合同防災訓練は毎年秋、13自治会でつくる「燕第一地区まちづくり協議会」などと実施。協議会の笹川常夫会長(81)は「中学生の動きがよく、訓練が活気づく。昼間に地震が起きれば、地元にいるのは子供に高齢者だ」と中学生の活躍に期待する。

 今年は9月29日に行い、約1300人が参加。中学3年生が避難場所で安否確認作業を手伝ったり、段ボールを使った簡易便所の作り方を紹介したりした。生徒会役員の星野司さん(15)や岡村大夢(ひろむ)さん(15)は「防災グッズにとても興味を持ってもらえた。訓練前より積極的に動けるようになった」とやりがいを感じたという。

 防災の基盤にもなる顔が見える関係づくりの一環で、金属加工や洋食器メーカーなど地元の経営者たちを招いた講演会も17年度から続けている。3年の石川華音(かのん)さん(14)は「燕市の産業に誇りを持っている人たちと出会い、次世代に受け継ぎたいと思った」と話す。

東日本大震災:震災時「すぐ避難」2割 住民アンケ通し「地域の助け合い必要」 気仙沼・階上中 /宮城

 東日本大震災で大きな被害を受けた気仙沼市階上地区で、同市立階上中の生徒たちが、住民を対象に当時の避難行動や防災意識についてアンケートを実施した。地震発生後すぐに避難したとの回答は2割にとどまり、家庭では日ごろの備えが不十分だったことも浮き彫りになった。生徒たちは「過信や情報不足があった」と分析し、地域のつながりを重視した防災対策の必要性を訴えている。【新井敦】

 階上中は震災前の2005年度から防災学習に取り組んできた。震災後は地域との連携を活動のテーマに掲げ、地区の避難訓練への参加や階上小の児童たちへの防災啓発などに力を入れている。

 アンケートは昨年度に続き2回目。昨年は16年の福島県沖地震で津波警報が出た際の地区住民の行動を調べ、避難への意識が低い実態を知った。生徒たちは「震災が風化してきているのでは」と疑問を抱き、今年度は震災時の行動や意識を尋ねる調査を7月に実施。対象は階上地区の1460世帯で回収率は48%。自治会長宅を訪問して直接依頼し、昨年の同22%から大幅に上がった。

 回答のうち、東日本大震災当時「地震が起きてすぐ避難した」は22%。「警報や避難指示を聞いてから」が32%だった。すぐに避難しなかった理由の自由記述では「津波はもう来ないと思った」などの回答があった。

 また、40%が震災前に家族で災害対策を話し合っていなかった。事前に非常用持ち出し袋を用意していたのは14%だった。避難行動と事前準備のそれぞれの回答結果から、避難場所を決めていた人ほど避難開始も早いという傾向が見られた。

 生徒たちは「当時、自分の所は大丈夫という過信があり、各家庭で備えが不足していた」と分析。11月に階上公民館で開かれた防災フェスタや今月1日の同校防災学習発表会などで「家族・地域での話し合いや訓練をして、いざという時に助け合える関係を作りたい」と報告した。

 調査に助言をしてきた東北大災害科学国際研究所の佐藤翔輔准教授は「子どもたちが真剣に調べ、大人も真剣に答えた貴重なデータだ。結果を発表し、聞いてもらうことも意義が大きい。今後も子ども目線で震災を伝えていってほしい」と評価した。

 防災委員長の3年、菊田華奈さん(15)は「危機感が薄れている中で関心を高めたいと活動してきた。アンケートの回収率を上げられたのは成果の一つだった。これからは震災の体験を伝える場作りを考えていきたい」と話した。

 ◇ぼうさい甲子園で奨励賞も 石巻・広渕小は「はばタン賞」

 優れた防災教育を顕彰する今年度の「ぼうさい甲子園」(1・17防災未来賞)=毎日新聞社など主催=で、階上中が奨励賞に輝いた。石巻市立広渕小も、被災経験から生まれた優れた活動に贈られる「はばタン賞」に選ばれた。

 階上中は昨年度から地域住民の意識調査を実施し、地域を巻き込んだ防災教育に発展させている。今年度も、東日本大震災時の津波避難行動をテーマに階上地区の住民にアンケート調査し、「大切な命を守るため、日常的に備えておく必要がある」との結論を導いた。

 広渕小は、東日本大震災で6カ月にわたり避難所となり、学校と地域の防災組織の連絡会を設置。地域と連携した合同防災訓練を毎年行っている。

 今年の防災訓練では、危険箇所を点検しながら親子で避難し、地区ごとに防災マップを作成。応急手当訓練や簡易トイレの組み立てなどの体験も行った。また、学校独自の防災手帳を作成し、ランドセルで携帯させている。親子での防災手帳作りを通して、家に一人でいる時に地震が起きたらどうすればいいか、家族で考える機会につながったという。

 同校の渕村祐司教頭は「子どもたちが『自分の命は自分で守る』ためにどうすればいいか自分で考えられるよう、これからも取り組みたい。今回の受賞は励みになる」と話している。【根本毅】

県内の2校受賞 熊野高リーダー部に奨励賞 新庄中は継続こそ力賞 /和歌山

 優れた防災教育を顕彰する今年度の「ぼうさい甲子園」(1・17防災未来賞)=毎日新聞社など主催=で、県内からは上富田町の県立熊野高校・Kumanoサポーターズリーダー部が「奨励賞」に、田辺市立新庄中学校が特別賞の「継続こそ力賞」に決まった。【根本毅、阿部弘賢】

 熊野高は、2011年9月の紀伊半島豪雨で生徒1人を失い、これをきっかけに同部の防災活動が始まった。子どもやお年寄りなど災害時に援護が必要な人がどこにいるか把握し、絆を作っておくため、ボランティア活動を年130回以上続けている。

 今年、一人でも多くの命を救おうと、心肺蘇生の一連の動きをダンスにした「心肺蘇生ダンス」を創作し、啓発活動を行っている。さらに今年2月の台湾地震では、被災者を元気づけるため7月に現地に渡り、夏祭りでダンスを披露したり、高齢者の安否確認をしたりした。

 同部の受賞は4回目。顧問の上村桂教諭は「受賞は生徒の励みになっている。防災だけでなく、人口減少や高齢化など地域の課題に自分たちがどう関わり、改善していけるのか、生徒は高い意識で取り組んでいる」と話した。
 新庄中は今回が6回目の応募で、2014年度にグランプリに輝くなど毎回受賞している。防災教育には古くから取り組み、3年生が毎週1時間、グループごとに9教科に関連づけた防災学習を行う「新庄地震学」は18年目となった。

 現在、1年生は地域の災害を調べ、2年生はオリジナルの演劇「防災劇」を作り上げて披露する活動を行っている。
 同校防災担当の佐武利嘉子教諭は「生徒は自分たちで考え、主体的に取り組んでいて頼もしい。前年度の取り組みをさらに進化させるなど、継続的な取り組みが効果を上げている」と語った。

南阿蘇中に「はばタン賞」 熊本地震の体験を基に、避難所運営訓練取り組む /熊本

 今年度の「ぼうさい甲子園」(1・17防災未来賞)=毎日新聞社など主催=で、被災経験から生まれた優れた防災活動に贈られる「はばタン賞」に、初応募の熊本県南阿蘇村立南阿蘇中学校(生徒数254人)が選ばれた。避難所運営訓練を中心としたユニークな取り組みが高い評価を得た。

 南阿蘇中は2016年春、村内3中学が統合してできた。4月8日の開校式の6日後、熊本地震の前震が発生。その2日後に本震が起き、体育館が急きょ避難所となり、最大で約1200人がすし詰め状態で不安な日々を過ごした。
 生徒たちは支援物資の集積場などでボランティア活動に励んだ。その後、「避難所運営でもっとできることがあったのでは」などの声が上がり、避難所運営を想定した訓練を続けている。

 訓練は、静岡県が開発した避難所運営カードゲーム「HUG(ハグ)」と、生徒たちが運営者役と避難者役をそれぞれ演じる「リアルHUG」で、さまざまな局面にどう対処するか考えさせる。

 今年のHUGは11月15日に実施した。3年の平山鈴歩さん(15)は「病気や負傷した人に優先的にスペースを確保できたのは良かった」としつつ、バス旅行者に車中泊を続けさせたことを改善点に挙げた。自身も熊本地震で車中泊を体験し「体が伸ばせず苦労したから」と話した。

 17年度から、全9教科の授業に防災の視点を取り入れた。外国人を避難誘導するための英会話や、心身のリラックス法など楽しく学べる工夫を凝らす。阿蘇大橋の崩落現場など震災遺構の見学も取り入れ、熊本地震の記憶の風化に立ち向かう。防災主任の古賀元博教諭(43)は「何よりも継続していくことが大切」と訴えた。【松浦吉剛】

県内3校が受賞 /千葉

 優れた防災教育を顕彰する今年度の「ぼうさい甲子園」(1・17防災未来賞)=毎日新聞社など主催=で、県内からは県立長生特別支援学校(一宮町)が「津波ぼうさい賞」、県立矢切特別支援学校(松戸市)が「教科アイデア賞」、県立東金特別支援学校(東金市)が「だいじょうぶ賞」に選ばれた。

 ◇長生特別支援「津波ぼうさい賞」 ラップで安全を表現

 長生特別支援学校は海岸から約400メートル、海抜5メートルの場所に建つ。小学部4年の児童2人が今年から、災害や安全に関する言葉をラップ調で表現する「ラップ♪防災」に取り組む。

 暑さと熱中症を関連づけたり、天候の変化と「悲しい」など気分の変化をつなげたりした6種類の歌詞を滝川猛教頭が作成した。広く活用してもらおうと、自閉症スペクトラムの野中海渡さん(9)、ダウン症の野口夢葉さん(9)がラップを披露する姿を動画投稿サイト「ユーチューブ」に載せている。滝川教頭は「歌詞を作るにあたり、天気と災害を結びつけるなど教科の学習とつながるように工夫した」と語る。

 ◇矢切特別支援「教科アイデア賞」 雲レーダーを活用

 初応募の矢切特別支援学校は、防災科学技術研究所(茨城県)が校舎屋上に設置した雲レーダーの情報を防災教育にフル活用している。昇降口や職員室に設けた大型ディスプレーに雨雲の位置や気温などを分かりやすく表示。「雨雲が近づいているから下校時間をずらす」「○度だから上着を脱ぐ」など児童・生徒が自ら考え答えを出す場面が増えた。クラブ活動に「気象研究クラブ」があるのも特色だ。

 川に挟まれ、3方向からの海風がぶつかり雲が発生しやすいエリアのため、水害への備えは重要な課題。林田かおる校長は「日常生活と天気をつなげることで、主体的な判断ができる力を身につけてほしい」と期待する。

 ◇東金特別支援「だいじょうぶ賞」 地域と連携し活躍

 東金特別支援学校が受賞するだいじょうぶ賞は、まちの身近な安全を目指す優れた活動に贈られる。同校は、防災教育の取り組みを地域へ発信する児童・生徒有志による「あたりまえ防災隊」を中心に、防災ウオークラリーの運営など積極的に活動する。東金市が毎年11月に実施してきた合同避難訓練が今年、防災隊と共同で運営する「防災フェスタ」に形を変えるなど、地域防災を担う若手の「リーダー」として今後もさらなる活躍が期待される。

「チーム防災」に特別賞 中央大学生団体、地域への貢献評価 /東京

 優れた防災教育を顕彰する今年度の「ぼうさい甲子園」(1・17防災未来賞)=毎日新聞社など主催=で、中央大ボランティアセンター公認学生団体・チーム防災(八王子市)が特別賞の「だいじょうぶ賞」に選ばれた。大学に近い日野市で、小中学・高校や自治会の防災訓練に参加するなど、地域防災への貢献が評価された。

 だいじょうぶ賞は、安心・安全なまちづくりを目指す優れた活動に贈られる。日野市は多摩直下型地震や多摩川の水害、急傾斜地域での土砂災害などさまざまな災害の恐れがあり、チーム防災は地域防災の活性化や地域での懸け橋になることをテーマに活動する。

 活動には、楽しめる要素を盛り込む。「にんげんすごろく」や「防災神経衰弱」などオリジナルの防災ゲームや「防災パペット劇」を防災イベントや防災授業で行うと、参加した学生や子どもたちから「楽しいだけじゃなく、知識が身についた」という声が上がるという。

 チーム防災は2015年夏に結成された。東日本大震災の被災地に足を運んだ学生らが「突然襲う災害の恐ろしさ」や「大切なものが理不尽に奪われる悲しみ」を知り、悲劇が繰り返されないようにしたいと考えたことがきっかけという。

 稲泉大地代表(3年)は「防災は硬くとらえられがちだが、楽しんでもらえるように防災を教える団体が増えたら」と話している。【根本毅】

南ア・白根源小が特別賞 河川教育を評価 /山梨

 優れた防災教育を顕彰する今年度の「ぼうさい甲子園」(1・17防災未来賞)=毎日新聞社など主催=で、県内からは初応募の南アルプス市立白根源小学校(児童113人)が特別賞「教科アイデア賞」に選ばれた。

 同小がある南アルプス有野源地区は、古くから北を流れる御勅使(みだい)川の氾濫に苦しめられてきた。同小は2016年度から、河川環境・防災教育に取り組んでいる。

 主な活動は、予告なしの避難訓練や防災マップづくり。さらに、扇状地など地域の地理や歴史を学びながら、防災に結びつける授業を目指している。

 担当の望月宏樹教諭は「子どもたちに地域を知り、災害に備えてもらおうと始めた活動。数年たち、子どもたちの身についてきたと実感している。評価してもらえてうれしい」と話している。【根本毅】

青森・東中にフロンティア賞 地域住民と避難所運営訓練 /青森

 優れた防災教育を顕彰する今年度の「ぼうさい甲子園」(1・17防災未来賞)=毎日新聞社など主催=で、県内から青森市立東中学校(生徒298人)が特別賞の「フロンティア賞」に選ばれた。避難所サイン(ピクトグラム)や避難所運営マニュアルを作成し、地域住民とともに行った避難所運営訓練などが評価された。

 フロンティア賞は、過去に受賞がなかった地域での先導的な取り組みに授与される。ぼうさい甲子園は今回で14回目だが、これまで県内からの受賞はなく、東中は4回目の応募で初受賞となった。

 東中の活動には、地域に住む防災士や消防士、警察官、小中おやじの会、PTAらも連携している。ピクトグラムは、避難所でどんな部屋や場所が必要かを生徒が考え、情報掲示板やおむつ交換室などの場所を視覚で伝えられるようにデザインした。

 東中は「活動を通して『自分たちの地域は自分で守る』という地域防災の必要性を学び、地域住民間の連帯感が生まれた」と説明する。佐保美幸教頭は「子どもたちの頑張りが評価され、大変うれしい」と話している。【根本毅】

地域課題について考える 特別賞に島根中 /島根

 優れた防災教育を顕彰する今年度の「ぼうさい甲子園」(1・17防災未来賞)=毎日新聞社など主催=で、県内からは松江市立島根中学校が特別賞の「フロンティア賞」に選ばれた。高齢化が進む地域の現状や災害発生時の課題に関心を持ち、地域の防災について考える取り組みが評価された。

 同校は山と海に囲まれ自然に恵まれる一方、海からの津波、山側の土砂崩れなど災害の恐れがある。さらに、校区の一部が島根原発の5キロ圏内に入り、原子力災害の危険も想定される。2016年度から、総合的な学習の時間に防災学習を取り入れた。

 1年生は「災害―その時どう動く」をテーマに、地域の高齢化の現状や災害について考え、ハザードマップ作りにも取り組む。2年生は視野を地域外に広げ、阪神大震災の被害やその後の防災活動などを通して一般的な防災を学ぶ。3年生は、地域防災訓練への参加や避難所体験で、地域の一員としてできることを考える。
 城市則子校長は「一つ一つ丁寧に積み重ねた取り組みが評価されてうれしい。さらに取り組みを広げ、深めて、地域の防災の役に立つ子どもを育てたい」と話している。【根本毅】

教育のイベント一覧へ

教育