ぼうさい甲子園2016 受賞団体の取り組み
受賞団体の取り組み――地域面から
須崎高がGP 興津中は「津波ぼうさい賞」/高知
優れた防災教育や活動を顕彰する今年度の「ぼうさい甲子園」(1・17防災未来賞)=毎日新聞社など主催=で県内から県立須崎高(秋森学校長)がグランプリに選ばれた。小・中・高校、大学を含め、「全国一」を県内の学校が受賞するのは初めて。
また、四万十町立興津中(田上祐一校長)が津波への防災活動を推奨する「津波ぼうさい賞」を受賞した。須崎高は来月8日、兵庫県公館(神戸市中央区)で開かれる表彰式で成果を発表する。【高尾具成】
◇地域巻き込み活動 須崎高
須崎高は防災担当をする保健環境部教諭らを中心に防災・減災教育に力を入れてきた。その一人、保川治美教諭は「東日本大震災(2011年)が教えてくれたことが大きかった。受賞を機に生徒がどこでどんな立場になっても、災害を乗り切る力を前進させ、深めてくれることを願っています」と話した。
須崎高は13年度に津波ぼうさい賞、14年度に津波ぼうさい賞、昨年度は奨励賞を受賞。継続する取り組みや地域を巻き込んだ新たな活動が評価された。
東日本大震災後、防災面の意識改革に乗り出し、学校近くの避難路を整備。夜間も見える独自の避難誘導板も設けた。また、美術部を中心に「つなみん」「ソッセンジャー」など独自のキャラクターをつくり、絵本『命をつなぐ~南海地震に備えて~』でわかりやすく津波の威力や歴史、防災・減災対策も紹介。キャラクターによる「防災劇」も年々更新されている。防災プロジェクトチームの竹林俊輔さん(3年)、小野木瑚さん(2年)は「地域の高齢者らにも率先避難者になってもらうのが目標」と意欲を語った。
また、学校家庭クラブは制服メーカーから余った生地の提供を受け、全校生徒用の緊急用避難袋を制作。中身について今後、議論していくという。秋森校長は「地道な積み重ねと地域の理解のたまもので、防災への取り組みが生徒たちの成長や視野の広がりにもつながっている。受賞を地域住民の役に立つ取り組みへの弾みにしていきたい」と語った。
◇家具固定、避難路清掃 興津中
四万十町興津地区にある興津中は沿岸部から約300メートルに位置する。津波や液状化に加え、斜面崩壊などで幹線道路が遮断された場合、「陸の孤島化」する可能性もあり、地区内には津波避難タワーやヘリポートが整備される。各所に立つ「地域全員にげきろう」などの啓発看板は生徒らが小学校時代に書いたものだ。東日本大震災(2011年)後、避難場所を学校屋上から裏山へと変更した。
全校生徒12人は近くの興津小(08年度・大賞、12年度・津波ぼうさい賞)時代から防災マップづくりなどに取り組んできた。例年、興津小と一緒に避難訓練を年3回(在校時、下校時、登校時を想定)実施。「興津地区自主防災組織」「興津地域ぐるみ学校安全体制整備推進委員会」などとの連携も活発だ。避難路の清掃や防災炊き出し訓練なども積んできた。防災教育担当の衣笠雄一教諭は「『地域のお手本に』を目標に活動を続けてきた」と話す。
「家具転倒防止金具」を地域各戸に広げる活動は3年目を迎えた。地域住民を個別訪問し、家具を固定する生徒の姿には住民や行政からも賛辞が寄せられている。田上校長は「12人の生徒すべてが主役。防災に対しても責任を感じ、取り組んでいる。快く受け入れてくれる地域に感謝したい。今回の受賞は子どもたちの励みともなるはず」と話した。
宮古工2年ぶり入賞 「津波模型」作り啓発活動 /岩手
優れた防災教育の取り組みを顕彰する今年度の「ぼうさい甲子園(1・17防災未来賞)」(毎日新聞社など主催)で、宮古工業高校・機械科津波模型班(及川晃貴校長)が「津波ぼうさい賞」に選ばれた。入賞は2年ぶり8回目だ。
同校は、東日本大震災前から沿岸部の地形を忠実に再現する「津波模型」の製作に取り組んでいる。今年度は、ぼうさい甲子園をきっかけに交流が始まった高知県須崎市の県立須崎工業高校に、須崎地区の津波模型を贈った。須崎地区は南海トラフ巨大地震の際に、大津波の来襲が予想されている。宮古工高の生徒らは、これまでのノウハウを他の地域の津波防災に役立ててほしいと考えたという。
宮古市では復興事業が進み、震災前と比べ町並みや道路の位置などが変わった。そのため、以前に作った津波模型を作り直している。模型を使い、市内の小学校などで津波のメカニズムを説明する講演会も開いてきた。
8月の台風10号では、学校周辺の住宅が浸水するなどの被害が出た。舘下仁さん(3年)は「いざという時、多くの住民に命を守る行動をとってもらえるよう、活動を続けていきたい」と話した。【山本愛】
3団体が初受賞 国立あかるくらぶ、日野第六小、足立工高 /東京
優れた防災教育や活動に取り組む学校や団体を顕彰する今年度の「ぼうさい甲子園」(1・17防災未来賞)=毎日新聞社など主催=で、都内から一橋大生らでつくる防災チーム「国立あかるくらぶ」が安心・安全なまちづくりに取り組む団体などに与えられる「だいじょうぶ賞」に、日野市立日野第六小学校(古宮キヨ子校長)と都立足立工業高(堀切哲弥校長)が教科アイデア賞に、それぞれ選ばれた。いずれも初の受賞。来月8日に神戸市で表彰式がある。
国立あかるくらぶは一橋大生らが「大学のある国立市のために何かしたい」と昨年、発足させた。防災訓練への参加や防災倉庫の点検、イベントの開催などを積極的に進めている。一橋大3年の前田慎太郎代表は「息の長い活動にしていきたい」と話している。
日野第六小は全学年で防災に取り組み、学んだことや思いを「命のノート」にまとめている。また、PTAと「防災キャンプ」を開くなど、地域との連携も深めてきた。古宮校長は「自分の命は自分で守り、さらに人に手を差し伸べるという気持ちが育ってきている」と話す。
足立工業高は社会の調べ学習や英語でのポスターづくりなど、アイデア豊富な防災教育が評価された。堀切校長は「持続可能な社会づくりへの取り組みを進め、防災教育を通じてさまざまな力をつけていくことが、学校の特色になっていけばいい」と話した。【伊地知克介】
四日市・楠地区子ども会育成者連絡協「継続こそ力賞」 小中学生に防災教育/三重
優れた防災教育・活動などを顕彰する今年度の「ぼうさい甲子園」(1・17防災未来賞)=毎日新聞社など主催=で、県内からは四日市市楠(くす)町の「楠地区子ども会育成者連絡協議会」が「継続こそ力賞」に選ばれた。
楠地区は伊勢湾に注ぐ鈴鹿川下流の三角州地域にあり、津波や洪水などが懸念されてきた。楠地区の約25の子ども会の保護者らで構成する同協議会は2003年から毎年、小中学生対象の防災教育に取り組んでいる。これまでも子ども会防災キャンプと銘打ち、避難所を想定した宿泊や炊き出し体験を企画したり、小学校のプールで救命ボートを使った救助体験などを開いたりした。
今年度は県消防学校への一日入校で消火訓練に挑戦したほか、小学校の土曜授業を活用して津波避難訓練を実施。災害時に子どもたちが自ら行動できるように取り組んできた。
14年間活動に携わってきた同会顧問の加田武徳さん(53)は「子どもたちが体験したことを地域の中で広げ、役割を担っていってほしい」と期待。今年度会長の森川さゆりさん(46)は「受賞を励みに、楽しみながら防災を学ぶ機会を作っていきたい」と意欲を見せた。【安藤富代】
鳴滝総合支援学校にだいじょうぶ賞 避難所運営訓練、リーダー中心に役割分担/京都
今年度の「ぼうさい甲子園」(1・17防災未来賞)=毎日新聞社など主催=で、京都市立鳴滝総合支援学校(京都市右京区)が高校生部門のだいじょうぶ賞に選ばれた。知的障害がある同校の生徒約70人は、クリーニング、メンテナンス(ビルクリーニング)、福祉・介護を専門教科として学んでいる。災害時に即戦力となる技能を生かすため防災訓練を行ってきた。【大川泰弘】
避難所の運営訓練は、生徒が5班に分かれて実施。総務班が避難者の名簿を作って体育館の避難所に案内。衛生班はアルコールを使って避難所の衛生を確保し、情報班は教員が口頭で告げる災害情報をメモにとって模造紙に書いて貼り出した。知的障害の程度はまちまちで、流動的な事態に臨機応変に対応することが苦手な生徒や、意思伝達が得意でない生徒もいるが、各班にリーダーを置くことで責任感と自立性が生まれたという。竹内香校長は「引っ込み思案と思っていた女子生徒がリーダーとして班を引っ張るといった生徒の意外な側面も分かった」と話し、手応えを感じている。
だいじょうぶ賞は、安心・安全なまちづくりを目指す取り組みに贈られる。
八代・坂本中がフロンティア賞 熊本地震時に実践力を発揮/熊本
優れた防災教育の取り組みを顕彰する今年度の「ぼうさい甲子園」(1・17防災未来賞)=毎日新聞社など主催=で、八代市立坂本中学校が「フロンティア賞」に選ばれた。同賞は、初応募の地域の特色ある取り組みに贈られる。
坂本中は、台風などで土砂災害が起こる危険性の高い地域にあり、2014年度から避難所の運営などを学ぶ防災キャンプを実施してきた。熊本地震の際は、体育館が避難所になり、住民約40人が避難。生徒らは防災キャンプなどで培った実践力を発揮し、段ボールや柔道用の畳を使って居住空間を作ったという。
光山忠校長は「熊本地震では、日ごろの訓練が大切だと改めて感じた。賞を励みに活動を続けていきたい」と話した。【山本愛】