第44回毎日農業記録賞《高校生部門》優秀賞・中央審査委員長賞


食の世界遺産を植物工場で守る!〜伝統野菜を未来に繋げるために〜

長崎県立諫早農業高校 3年 濵本 恵さん

雲仙子豚かな? 初めて聞く言葉は私には呪文のように思えました。私の住む長崎県には多くの伝統野菜があります。「雲仙こぶ高菜」もその一つです。長崎県には他にも長崎はくさい、長崎赤かぶ、長崎高菜、木引かぶなど多くの伝統野菜が存在します。野菜の授業で習った郷土の伝統野菜について私はほとんど知りませんでした。

私は農業とバイオテクノロジーに興味があり、長崎県立諫早農業高校に入学しました。部活動は、地域の問題に取り組んだ研究を行っている生物工学部に入部し、この生まれ育った長崎のために何かしたい、〝地域を活性化させたい〟との思いで3年間部活動を頑張ってきました。生物工学部は諫早湾干拓地の〝葦〟からバイオエタノールを生成する研究や、対馬の絶滅危惧種の保護増殖活動などに取り組んでいます。そして地元の伝統野菜の〝雲仙こぶ高菜〟の復活プロジェクトも研究活動の一つです。

雲仙こぶ高菜は、1950(昭和25)年代は長崎県雲仙市吾妻町を中心に盛んに栽培されていました。しかし、他の高菜と比べ収量が少なかったことや本来の特徴である〝こぶ〟がかえって形が整わない奇形品と評価されたことなどから次第に生産数が減少していきました。しかし、地域の方々に愛された雲仙こぶ高菜の味は、地元の少数の農家で守られてきました。その地域に根ざした栽培方法と、その味が評価され、2008 年7月に、イタリアに本部を置くスローフード国際協会から日本で唯一、スローフードの最高位「プレシディオ」に認定されました。

スローフード国際協会では絶滅の危機にある食材や種を守るプロジェクトを進めており、簡単に言うと「食の世界遺産」を認定し保護していくものです。これは世界的に見ても希少で地域活性化に繋げていくような食材を認定し、生産・販売の支援を行う取り組みで、アジアで認定された食材は6例しかないのが現状です。私はこのような事実を授業で初めて知り、とても驚きました。そんな世界でも数少ない貴重な野菜が地元にあること、何より実際に見てそして食べてみたい。私はこのような思いから、栽培農家の方に連絡を取り訪問しました。

訪問したのは、雲仙こぶ高菜の栽培から加工を行い販売されている守山女性部加工組合の馬場節枝さんです。馬場さんからはさらに詳しく雲仙こぶ高菜の歴史や、栽培農家が減少した理由などをお聞きすることができました。その後、馬場さんから雲仙こぶ高菜の葉を1枚手渡されました。私は初めて見る変わった形に戸惑いを感じました。それは葉柄部分が親指大にしっかり〝こぶ〟のように肥大していたからです。馬場さんから言われるがまま、生の肥大した〝こぶ〟にかじりつきました。すると、口の中いっぱいに甘い汁が広がり、想像と違った味に思わず「甘い」とつぶやいていました。驚く私を見ながら馬場さんから「高校生の力でこの雲仙こぶ高菜をもっと多くの方に食べてもらえるようにしてください」とのお言葉をいただきました。

私は早速、部員とミーティングを行い、〝雲仙こぶ高菜〟の保護活動を部活動の一環として行えないかと話しました。しかし、これまでの絶滅危惧種などの保護活動とは違う取り組みに戸惑う部員達に、「誰かが栽培していかないとこの素晴らしい野菜は消えてしまう、だったら私達の手で守ろう!」と呼びかけ、研究をスタートすることにしました。

まず、栽培方法などを詳しく知るため再度、馬場さん宅を部員全員で訪問しました。馬場さんは私達の質問に丁寧に答えてくださり、最後に雲仙こぶ高菜の種子が詰まった小さな小瓶を手渡されました。雲仙こぶ高菜の栽培農家は県内に10 軒ほどしかないのが現状で、種子も栽培農家が一粒一粒採取しており、その貴重な種子を私達部員のために分けてくださり、私はこのとき、小さな種子一粒一粒に栽培農家の方々の期待の大きさを感じました。そして必ず研究を成功させたいという思いが湧き上がってきました。

早速、雲仙こぶ高菜の栽培を開始することにしました。耕うん・播種・定植など、作業は他の野菜栽培とあまり変わりませんでしたが、実験室での作業が多い私達にとってはどの作業も大変な作業でした。しかし、定植後しばらくすると、すくすくと成長していく雲仙こぶ高菜の姿は、普段実験室で植物を培養している私達にはとても新鮮なものでした。栽培は地元の方と同様に無農薬で行い、毎日葉数、草丈の観察を続けました。そして130 日後、立派な雲仙こぶ高菜を収穫することができました。

収穫した雲仙こぶ高菜を馬場さんに見ていただくと、「こんな立派なものが栽培できるとは思いませんでした」とお褒めの言葉をいただきました。収穫した雲仙こぶ高菜は、守山女性部加工組合の方々と一緒に白和えに調理して学校で配布し、食べていただきました。雲仙こぶ高菜を初めて食べた先生方や生徒からは「おいしい!」と高評価で、活動に自信を持てました。

しかし、栽培について部員で検証を行うと「栽培期間が冬季に限られている」「病害虫の被害葉が多い」「露地栽培では生産拡大は難しい」など様々な意見が出されました。一年中雲仙こぶ高菜を栽培し、さらに病害虫の被害を受けない方法を検討している時、ふとひらめいたのです。「普段植物を培養している培養室のような環境で栽培できたら」と。そして、植物工場での栽培に着目しました。植物工場なら温度管理ができ、さらに害虫の被害を受けることはありません。

そこで、事前調査を重ね試行錯誤の結果、ラックを改造した手作りの植物工場が完成しました。早速栽培を開始しましたが、何度挑戦してもうまく栽培することができず、植物工場で様々な野菜を研究されている福岡県久留米市の九州沖縄農業研究センターを訪問し、植物工場についての研修を受けました。センターの方からは「伝統野菜はその野菜に適したオリジナルのマニュアルを作る必要があります」と教えていただきました。早速、私達はミーティングを行い、発芽温度、栽培養液、光条件の3点について検討を行うことにしました。

発芽温度を調査するため、温度・光条件の合計30 区分で実験を行い、温度25℃、光照射2日で最も発芽率を高めることができました。

次に、栽培養液を検討するために、一般的な水耕栽培用肥料を150 通りの組み合わせで栽培実験を行いました。栽培から3週間を過ぎると成長に大きな差が見られ、最適な養液の組み合わせを見つけることができました。
そして光条件の検討は光源からの距離10 区分と、発色が異なるLED4区分で実験を行い、合計40 区分で生育の違いを測定した結果、赤色LEDで11㌢の距離が最も良いことが分かりました。

また、比較実験として露地栽培と植物工場で比較したところ、草丈・葉数ともに植物工場区の成長が良いことが分かり、雲仙こぶ高菜に適した発芽温度、栽培養液、光条件を発見することができ、オリジナルの栽培マニュアルが完成しました。
さらに、LEDで栽培することで栄養面にどのような影響を与えるかを調査するため長崎大学薬学部の山田先生のご協力の下、栄養分析を行いました。結果は、赤青2色のLEDで栽培したものはカリウム・ビタミンが一般的な高菜よりも高いことが分かりました。

この結果を、長崎県農林技術開発センター研究企画部門長濵口さんに報告すると「素晴らしいデータですね、光色によって成長の違いがはっきり出ていますね」とのお言葉をいただきました。

また栽培した雲仙こぶ高菜を、地元直売所、試食アンケートなどで、販売を想定した価格を査定していただき、経営分析を行いました。結果は平均1株150 円となり、これを現在の植物工場1台の規模で換算しますと400 株× 12 回栽培で72 万円となります。これらから肥料代・光熱費を引くと60 万円となります。

さらにハウステンボス次世代農業担当の方にも試食していただき「植物工場で伝統野菜とは素晴らしいアイデアですね。メニューにも加えたいですね」と高い評価をいただき、現在はハウステンボス内ホテルでのメニュー化が決定し、提供に向け準備に追われています。また、ハウステンボス内植物工場でも私達の技術を応用して雲仙こぶ高菜を栽培していただけることになり、これまでの苦労が形になったことを実感しました。

現在でも、多くの方が本校に視察に訪れ、アメリカやオランダの農業関連企業の方々からは「今後は海外への技術輸出も視野に入れ頑張りましょう」とのお言葉に、部員全員で驚きました。このような私達の取り組みは地元テレビ、新聞など多くのマスコミに取り上げていただき、先日は新聞の全国紙にも掲載され、県内外の方に取り組みを知っていただけました。さらに活動を知った地元企業と連携が進み、地元企業と連携することで1年間生産を行うと、最大4.7㌧の生産が可能となり、現在の県内生産量の20%の向上に繋がります。

活動開始から2年間、一つ一つの結果を積み上げ地道な取り組みを進めてきました。辛いときもありましたが、「雲仙こぶ高菜の味を多くの方に知ってほしい」「誰かが守らないとこの素晴らしい野菜が消えてしまう」との想いで頑張ってきました。

そしてこの度、「プレシディオ」を受賞した長崎県の伝統野菜である「雲仙こぶ高菜」。プレシディオにはラテン語で〝守る〟、イタリア語で〝砦〟 という意味があります。私達の取り組みで生産量を大きく増やすことはできたと思います。しかし、生産量を増やすだけでは、いつかまた減少し消えていく可能性があります。だからこそ、今一人でも多くの方に雲仙こぶ高菜を食べていただき、その味を記憶に残してほしいと思います。多くの方の記憶に残すことこそが、食の世界遺産を守る方法だと思うからです。

そのために私はさらに専門的知識を身につけ、様々な野菜を植物工場で栽培できるようになりたいと思っています。そして、すばらしい食の世界遺産を未来に繋げられるよう守りの砦となり頑張っていきます。

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