第61回毎日芸術賞を贈呈 逢坂剛氏ら6人に
第61回(2019年度)毎日芸術賞(特別協賛・信越化学工業株式会社)の受賞者が決まり、1月24日に東京都文京区のホテル椿山荘東京で賞を贈呈しました。
受賞したのは作家の逢坂剛氏、俳人の宇多喜代子氏、俳優の草笛光子氏、バイオリニストの佐藤俊介氏、現代美術家の塩田千春氏、テレビ演出家・脚本家の今野勉氏の6人です。

受賞者5人の贈呈式でのスピーチを紹介します。
文学Ⅰ=小説・評論
逢坂 剛さん
小説「百舌落とし」(集英社)刊行に伴う小説「MOZU」シリーズ完結 全7巻

◇誰も書かぬもの書く
警察小説「MOZU」シリーズを昨年刊行の『百舌(もず)落とし』(集英社)で完結させ、文学Ⅰ部門を受賞した作家の逢坂剛さんは「MOZUにようやく日の光が当てられた。33年書いてきたかいがあったと誇らしく思う」と語った。
残忍な謎の殺し屋「百舌」の正体を追う同シリーズは、2014年にドラマ化、15年に映画化された。「公安警察という当時知られていない分野から警察組織の腐敗を書いたため、なかなか映像化できなかった。それができたのは、ようやく時代が追いついたと感じた」と振り返った。その上で「誰も書かないものを書くのが作家の使命だと思う」と力を込めた。
文学Ⅱ=詩・短歌・俳句
宇多 喜代子さん
第8句集「森へ」(青磁社)をはじめとする、これまでの句業

◇師と同じ栄誉の感慨
第8句集『森へ』(青磁社)などで文学Ⅱ部門を受賞した俳人、宇多喜代子さんは「多くの方に支えられて65年余、ただ好きでやってきたことが賞につながり、心から御礼申し上げます」とあいさつ。
受賞の知らせに、長く師事した桂信子さんの受賞(03年度)の際の晴れがましい気持ちを思い起こした。「ご存命なら、いちばん喜んでくださるはず」と感慨を込めた。 「森という言葉は私を休ませてくれます。一服したくてその中に座ると、刻々と過ぎる時間が心身に感じられる、そういう思いで作った句集です。これからも励んでまいりますので、皆様ご鞭撻(べんたつ)くださいませ」と笑顔を見せた。
演劇・邦舞・演芸
草笛 光子さん
舞台「ドライビング・ミス・デイジー」(2019年6月22日~7月15日=東京・紀伊国屋ホールほか)のデイジー・ワーサンの演技

◇女優人生さらに磨く
舞台「ドライビング・ミス・デイジー」のデイジー・ワーサンの演技で演劇・邦舞・演芸部門を受賞した俳優の草笛光子さんは「86歳でこんなにすばらしい賞をいただけて、うれしくて布団をかぶって泣きました」と率直に喜びを語った。
共演した市村正親さんと堀部圭亮さんを壇上に呼び、腕を組みながら「ミス・デイジーを作ったのはこの二人と、細かく演技をつけてくれた演出家の森新太郎さん、そしてすばらしいスタッフのみなさんだと思います」と感謝を述べた。「あとわずかな女優人生だと思いますが、一生懸命磨きをかけます」と話すと、ひときわ大きな拍手が送られた。
音楽Ⅰ=クラシック・洋舞
佐藤 俊介さん
オランダ・バッハ協会管弦楽団 日本ツアーの弾き振り(2019年9月30日=東京・浜離宮朝日ホールほか)

◇目標は音楽の普及(ビデオメッセージ)
オランダ・バッハ協会管弦楽団を率いての来日ツアーで音楽Ⅰ部門を受賞したバイオリニスト、佐藤俊介さんは公演のため欠席。ビデオメッセージで「音響の調整や団員の時差ぼけ対策に追われ、評価を気にする余裕がなかった」とツアーを振り返り、「驚きと喜びでいっぱい」と感謝。目標に音楽のさらなる普及を挙げ、「頑張ります!」と力強く締めくくった。
美術Ⅰ=絵画・彫刻・工芸・グラフィック
塩田 千春さん
個展「塩田千春展:魂がふるえる」(2019年6月20日~10月27日=東京・森美術館)

◇観客が創作の励みに
東京・森美術館で昨年開催した個展「塩田千春展:魂がふるえる」で美術Ⅰ部門を受賞した現代美術家の塩田千春さんは「作品を作っていると、暗い闇の中に自分が入っていって、どうしようもない気持ちになることがある」と創作における葛藤を振り返った。
「作ることだけを生きがいでやってきた」と語る。「人生をかけた個展」には、4カ月で66万人が来場。同館の歴代2位を記録した。会場に何度も足を運ぶ人の姿に、「私が見る闇は人間に共通すると思った。私も作品をつくることを励まされたようだった」と言い、ギャラリーや美術館スタッフら、これまで支えられた人々に感謝を述べた。
特別賞=放送
今野 勉さん
NHK「宮沢賢治 銀河への旅」(2018年12月~2019年2月)の演出と、長年にわたるテレビへの貢献

◇番組での評価に感謝
テレビ番組「宮沢賢治 銀河への旅」で特別賞を受賞したテレビ演出家の今野勉さん。これまでの番組制作の経験を生かし、ドラマや影絵、CG(コンピューターグラフィックス)、郷土芸能など多くの表現手法を組み合わせ、宮沢賢治の実像に迫った。
「いわゆるドキュメンタリーとは違う。なぜそうしたかというと、賢治を理解してもらう最善の手法を考え、結果的にそうなった」と説明。「ドキュメンタリーやドラマという区分けで見られると、イマイチという評価になってしまう。今回はテレビ番組として(トータルで)評価してもらえ、非常にうれしい」と感謝の弁を述べた。
受賞者略歴
■逢坂剛(おうさか・ごう)氏 東京都生まれ。1980年「暗殺者グラナダに死す」でオール読物推理小説新人賞受賞。86年「カディスの赤い星」で直木賞。2015年「平蔵狩り」で吉川英治文学賞を受賞。著書に「御茶ノ水警察」「道連れ彦輔」各シリーズなど多数。76歳。
■宇多喜代子(うだ・きよこ)氏 山口県生まれ。武庫川学院女子大(現武庫川女子大)卒。俳誌「草樹」会員代表。現代俳句協会会長を経て特別顧問。句集「象」で蛇笏賞、「記憶」で詩歌文学館賞。読売俳壇選者。2002年紫綬褒章。日本芸術院会員。19年文化功労者。84歳。
■草笛光子(くさぶえ・みつこ)氏 神奈川県出身。1950年、松竹歌劇団に入団し、53年に映画デビュー。日本ミュージカル界の草分け的存在。読売演劇大賞優秀女優賞、紀伊国屋演劇賞・個人賞、菊田一夫演劇賞・特別賞など受賞歴多数。紫綬褒章、旭日小綬章。86歳。
■佐藤俊介(さとう・しゅんすけ)氏 東京都生まれ米国育ち。2歳でバイオリンを始め、ジュリアード音楽院のほか仏独で現代楽器と古楽器双方の奏法を学ぶ。バッハ協会を率いる傍らソリストとして活躍。アムステルダム音楽院で後進の指導にも当たっている。35歳。
■塩田千春(しおた・ちはる)氏 大阪府生まれ。京都精華大で洋画を学び、1996年にドイツに渡る。ベネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館代表(2015年)を務めたほか、各国の美術展に参加し、個展も多数。08年、芸術選奨文部科学大臣新人賞。ベルリン在住。47歳。
■今野勉(こんの・つとむ)氏 秋田市生まれ。東北大文学部卒。1959年ラジオ東京(現TBSホールディングス)入社。70年テレビ番組制作会社「テレビマンユニオン」創設に参加。現同社最高顧問。「七人の刑事」「遠くへ行きたい」などの演出も担当した。83歳。
選考委員(敬称略)
小田島恒志(英文学者)▽建畠晢(美術評論家)▽松浦寿輝(詩人、作家、評論家)▽平野昭(音楽評論家)▽小松浩(毎日新聞社主筆)
毎日芸術賞とは
1959年(昭和34年)、毎日新聞が創刊3 万号を迎えたのを契機に芸術部門ごとに行われていた顕彰制度を一本化して創設しました。芸術全分野の活動を対象に、前年の11月1 日から当該年の10月末までの年度内に特に優れた芸術的成果を挙げた個人、団体を対象に表彰しています。