第48回毎日農業記録賞《一般部門》 最優秀賞
ソバ咲き誇る赤城深山へ
高井眞佐実(70)=群馬県渋川市
54歳の時、東京から赤城山麓(さんろく)に通い、ソバの栽培を始めた。知り合った仲間から栽培方法を学んだ。若い頃、東京でソバ屋を営んだ経験から、ソバ屋の喜ぶソバを栽培したかった。無農薬と土にこだわり、耕作放棄地を再生。「畑を大切に扱ってくれるから」と、農地が集まった。玄ソバ価格の暴落にも耐え、加工施設を建設。会社を設立して、息子と二人三脚で、ソバ粉を売り込んだ。一方で、体が悲鳴を上げた。悪性リンパ腫に罹患(りかん)したことが分かった。治療で東京に向かう時、帰るべき場所はここだ、と思った。
おいしい野菜を食べたい
後藤典夫(66)=水戸市
18年前に49歳で新規就農。葉物野菜の栽培と販売を続けている。販売量を上げるために輸入野菜に着目し、パプリカ、ベビーリーフを手掛けた。「やわらかい野菜でもつぶれないようにしたい」。お客の声から、低コストの薄いプラフィルムを使い、日持ちがよく、中身がよく見えるパッケージデザインを研究。立体的で保存性の高いパッケージを開発した。グッドデザイン賞の中小企業庁長官賞を受賞。「栽培技術の開発だけでなく、産品を消費者にきちんと届けることで『新しい農業』の形が生まれる」と思う。
おいしい桃をめしあがれ‼ 『翁美(おうみ)の里』は農業のアミューズメントパーク
里見貞代(63)=岡山市
観光農園を経営。桃を75アール、その他の果樹を25アール栽培している。桃農家の3代目。保育士をしていた2012年、両親から後継を打診され、56歳で退職。2年間、両親の栽培指導を受けた。認定農業者になり、洋梨、リンゴなどを実験栽培した。18年に農家カフェを開業。最初は大ざっぱな経営で壁にぶつかり、接客のストレスにも苦しんだ。商工会のアドバイスで経営目標を具体化させた。果樹の収穫体験を口コミで広め、今年は民泊も開業。農業のアミューズメントパークを目指す。
私たち家族のこれから
大石亘太(35)=島根県奥出雲町
2012年に牧場を始めた。非農家出身。大学時代、隠岐諸島の牛の放牧に出合い、卒論のテーマに選んだ。結婚後、「放牧をやりたい」という思いがくすぶり、酪農家を募集するホームページに応募した。3歳の長女と、妻のおなかには長男がいた。2年間の研修、開拓作業に従事し、開業にこぎつけた。この間、次女も誕生。牛舎で育った牛たちは放牧をいやがったが、自然に任せた。外に出る牛が増えると、今度は人間のお客さんが集まってきた。何度も足を運びたくなるような、公園のような牧場を造っていきたい。