第50回毎日農業記録賞《高校生部門》優秀賞・中央審査委員長賞


高校生の農業Life

松岡遥斗=静岡県立静岡農業高3年

高校生部門優秀賞・中央審査委員長賞 松岡遥斗さん

◇まつおか・はると
 2004年、静岡市駿河区生まれ。3兄妹の長男で、幼少期から祖父の家庭菜園で農業に親しんだ。高校では「野菜部」の部長を務める。「好きなことはとことんやる性格」といい、同市を拠点とするJリーグ清水エスパルスの熱心なサポーターでもある。

 15時30分。放課後になると私は学校から13キロ離れた静岡市の藁科地区へ自転車を全速力で走らせる。本山茶で有名な地だ。40分程走らせると私の野菜畑に着く。高校生と農家そして、農業YouTubeを中心としたSNSなど多くのことに挑戦する私。高校1年生の8月から高校3年生の8月までの農産物販売金額は300万円を超えた。農作業の様子を投稿するSNSのフォロワーは3000人を超えている。私は、静岡市藁科地区で農地40アールに野菜を作付けし直売所などへ出荷する現役高校生農家だ。

 物心ついた頃から畑で遊び育った私は現在、ナスやピーマンなどをはじめとする夏野菜、白菜やブロッコリーなどの冬野菜を作付けし販売している。祖父は家業だった農業をやめ勤めに行き週末は家庭菜園を楽しんでいる。農業はその家庭菜園で主に学んだ。小学校3年生では、ジャガイモの種イモ10キロを一人で栽培した。収穫できたのは80キロ。ジャガイモにしては少ない。高校3年生になる現在まで、毎年ジャガイモの栽培は続けている。施肥や土寄せなどの栽培方法の改善によって、100キロを超える収量をあげるようになった。この他にもサツマイモや白菜などの栽培も小学生から継続している。小学校卒業時の夢はこの藁科地区で農業を営むことだった。

 そして高校に入学。迷うことなく静岡農業高校に入学した。やっと農業について本格的な学習ができると胸を膨らませていた中で思ってもみないことが起こってしまった。新型コロナウイルス感染症が世界中で流行し日本国内に緊急事態宣言が出されたのだ。当然入学したての私も高校に通学することはできなかった。今まで当たり前だったことができない歯がゆい感情にとらわれた。友達のできる間も無く休校となった。思ってもいない形で自分の時間ができた。この時間を無駄にしてはいけないと感じ、その時間は毎日藁科地区の農家で手伝いなどを行い農業技術の習得を試みた。

自分の畑を持つ

 手伝いを始めてしばらくすると、地域の方が「使っていない農地があるからやってくれないか」と声をかけてくれた。私は迷わず農地を借り、高校1年生の8月には15アールの自分の畑を持つようになった。この畑にはハクサイ2000株、ブロッコリー2000株を植え付けた。

 私は収穫した野菜を販売するために、地域の農産物販売所に売り込みに行った。9月には契約し祖父の畑で私が栽培した野菜の販売をした。自分の栽培した野菜が売れたことに喜びを感じた。11月下旬より、自分の畑で栽培した白菜やブロッコリーを出荷した。売り上げは約30万円程であった。

 地域の方たちに応援していただき農地面積も現在は40アールに迫っている。また、地域の販売所では作付けした野菜を売り切ることができなくなったため大手スーパーに売り込みに行き、時間はかかりながらも厚い壁を打ち破り前例のない未成年者の消化仕入れ契約に至った。現在では地場野菜コーナーなど6店舗に栽培した野菜を出荷している。農繁期には朝4時から畑に行き収穫などの管理をする。大変な時もあるがおいしい野菜を消費者に届けたいため管理作業に励んでいる。

 農産物の販売を始めてから約2年。今では直売所で私の野菜を心待ちにしてくれている消費者もいる。売上金額は300万円近くなり管理機や動力噴霧器などの農業機械の購入や栽培資材の購入などに充てた。また、廃業した地域農家から機械も譲り受け、乗用トラクターや管理機などの農業機械がそろった。

 令和3年には税務署へ開業届を提出し、確定申告(白色申告)を行った。しっかりと収支に向き合うことで多くの農家の語る、経営面での農業の大切さを身に染みて理解ができた。

 畑で作業していく中で、地域農業の歴史や現状を多く聞く機会が増加した。農家からは「お茶栽培発祥の地のお茶栽培の衰退の事実」「農業の大変さ」など多くの意見を口々にもらった。

 中でも最も衝撃を受けた言葉がある。それはこの地で長く農業をしている方の言葉だ。「こんな土地で農業をやってもダメだ。大規模産地にはこの藁科地区は負ける。お茶の生産量もあと数年で負けるだろう。この地域の農業に明るい兆しはない」。この言葉には衝撃を受けた。悔しさと絶望。なぜこの地はそんなにも農業が衰退したのか。何か私が地域農業の活性化に貢献できないかと強く思った。

YouTubeなどで情報発信

 高校1年生の夏休みに職業インタビューの課題で農業ユーチューバーの三和農園を訪ねた。これがきっかけとなり、私も自分の農作業記録のために動画を撮影しYouTubeへの投稿を始めた。動画を配信することで地域農業の活性化につながるのではないかと考え配信を継続している。「高校生の農業Life」というチャンネルに配信し現在までに合計28万回再生され、広告収入も6万円程度獲得した。栽培をしていくうえでうまくいかないことなどもあったが、その現状を発信することによって多くの対策方法などを聞くこともできた。YouTubeのほかにInstagramやTwitterなども活用し自分の農業活動の発信を行っている。これらのコンテンツでの情報発信によって消費者の声を直接聞いたり全国の農家と情報交換を行ったりもしている。実際に千葉県の農家を見学したり、農家の方が私の畑を見に来て意見交換や栽培アドバイスをくれることも多々ある。地域以外の農業も知ることができ、視野が広がった。

 いつも通り畑で作業をしていると、農家高齢化により幼稚園での収穫体験の野菜を栽培しなくなる現状を耳にした。私は真っ先に幼稚園へ走り「私が引き受けます」と申し出た。農業を楽しく伝えるこの活動は消滅させてはいけないと考えている。令和3年のジャガイモの収穫体験から、私主催での開催になった。ジャガイモの収穫体験を開催した際には園児らが終始笑顔で体験をしてくれた。丹精込めて作った野菜を楽しそうに収穫している姿に私は目頭が熱くなった。そして改めて農業の魅力を感じた。

野菜の収穫体験を企画

 今年、2年目の開催ではジャガイモの定植から収穫までを自ら企画。植物の一生を観察してもらった。サツマイモや大根など多くの野菜の収穫体験も新規開催していっている。開催するたびに園児からは多くの刺激をもらう。収穫体験後は幼稚園の昼食時にカレーやふかし芋などで食べてもらう。園児が頑張って収穫した芋を食べる様子を見ると丹精込めて栽培してきてよかったな、もっとおいしい野菜を栽培したい、と毎回思う。その他にも「泥んこ遊び」、「大根の収穫体験」などこれまでに5回の幼稚園児を対象とした収穫体験学習を開催した。今後は、親子で参加型の収穫体験なども開催していきたいと考えている。

 私の活動は注目され新聞やテレビ局に取り上げられ、2度テレビで放映された。高校生の私がメディアに注目されることによって、農業に対しての関心や地域への関心が強くなっていると感じている。高校生という肩書を借りながら農業に熱中した結果と言えるのではないか。微力ながら藁科地域の農業活性化に貢献できているのではないかと感じている。藁科地域の農家の方々も私の農業活動に注目してくれている。

 まだまだ私の思い描いている農業ができているわけではない。まだ私の農業経営規模では専業としてやっていくことは難しいと感じている。

 今後は、農業経営の中にSNSと農業体験を取り入れた、藁科地区では行われていない副収入のある農業経営をしていきたいと考えている。そのために、今まで経験則で進めてきた作業に新たな知見を加える。より専門的な知識を加え、より根拠立てて説明できるように大学に進学する。新たな農業経営を探求すべく、仲間と共に切磋琢磨しながら学習をして進めていきたいと思う。

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